アートテラー・とに〜と歩く、上野の杜、東京春祭

 今年も『東京・春・音楽祭』の季節がやってきました。コンサートも桜(ついでにお酒)も、そして展覧会もいっぺんに味わえる。まさに上野のベストシーズンです。「えっ、でも、美術って敷居が高そう・・・」と、なかなか美術館に足を運ぶ気になれない方は少なくないはず。あぁ、なんともったいない!
 そこで今回は、アートテラー・とに〜流の美術の楽しみ方を皆様に伝授いたします。
文:アートテラー・とに〜(アートテラー)

2017.03.10夜の音めぐり
[東京都美術館/声楽アンサンブル](c)飯田耕治

■感性はみんな違っていい

 と言っても、美術を楽しむコツは、いたってシンプル。それは、どんな感想を抱いてもイイということ。美術作品を目にして抱いた感想は、誰が何と言おうと正解なのです。「綺麗!」と思ったら、それが正解。「変な絵!」と思ったら、それも正解。「キモい!」も「エロい!」も「ウケる!」も「カワイイ!」も、すべて正解です。
 もちろん、「・・・何も感じないんですけど(汗)」も正解。要は、自分の感想に自信を持つこと、肯定することが大事なのです。評論家や研究者のように、難しい言葉でそれっぽく自分の感想をまとめようとするから、勝手に難しく感じてしまっているだけなのです。また、評論家や研究者が作品を褒めているからといって、そう思わないといけない、なんてことはありません。もし、その作品を観て、「つまらないなァ」と感じたら、それも立派な自分の感性。感性はみんな違ってみんないいのです。ちなみに、僕の感覚でいえば、作品が10点あったら、心の底から無条件で良いなぁと感じられるのは、そのうちの1、2点くらいだと思います。この割合は、美術に限らず、コンサートや映画、小説、レストランなど、ほかのジャンルにも当てはまるのではないでしょうか。

■絵にあう音楽を考えてみる

 さて、ここまでは美術を楽しむコツの基本編。続いては、応用編です。描かれている人物の台詞をアテレコしてみる。ツッコミポイントを探してみる。「この後、絵の中で何が起こるか?」を妄想してみる。楽しみ方はいろいろとありますが、特にオススメなのは、その作品に一番しっくりくる音楽は何かを考えてみるというもの。葛飾北斎の《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》からインスピレーションを受けたドビュッシーが「海」という名曲を生んだり、スメタナの交響詩「モルダウ」に触発されたミュシャが《スラヴ叙事詩》という全20点からなる連作(国立新美術館で公開中)を生んだりと、切っても切り離せない関係にある美術と音楽。シーンとした環境よりも、(iPhone、iPodや脳内で)音楽を再生して観たほうが、作品世界により没入できるのです。

『神奈川沖浪裏』(かながわおきなみうら)
葛飾北斎1829/1833
Rijksmuseum

《スラヴ叙事詩「スラヴ民族の賛歌」》1926年 プラハ市立美術館 ©Prague City Gallery

■眼と耳を刺激すると、芸術鑑賞力が飛躍的にアップ

 現在、国立西洋美術館で開催中の“シャセリオー展”に展示されている《サッフォー》という作品を例にとってみましょう。描かれているのは、恋に破れ海に身を投じたという伝説を持つ古代ギリシャの女性詩人サッフォー。暗い海を見つめ想いを巡らせている。実にドラマチックな場面です。さぁ、この絵に一番しっくりくる音楽を考えてみましょう。

《サッフォー》テオドール・シャセリオー
1849年 ルーヴル美術館(オルセー美術館に寄託)
Photo C)RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF

国立西洋美術館で開催中の『シャセリオー展』展示室の風景
Photo:J.Otsuka/TokyoMDE

 中島みゆきの『うらみ・ます』? それとも、プリンセスプリンセスの『M』? 西野カナの『会いたくて
会いたくて』も、意外としっくりくるかもしれません。洋楽なら、サム・スミスの『Stay with me』でしょうか。それらの音楽が流れている状態で絵を見ると、3割増しでドラマチックに感じるはずです。もちろん現代の音楽に限らず、クラシック音楽でも。絵のイメージからすると、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番や、ベルリオーズ「幻想交響曲」がしっくりきそうです。また、シャセリオーは、19世紀に生きたロマン派の画家。同時代を生きたロマン派の音楽家、ショパンやシューマンのピアノ曲も合うかもしれませんね。『東京・春・音楽祭』の期間中なら、展覧会とコンサートのハシゴも可能。なんて贅沢な。観てから聴くか。聴いてから観るか。本物を目と耳とで味わえば、その感動は二乗になること請け合いです。

 ちなみに、芸術鑑賞で眼を、音楽鑑賞で耳を、その両方を刺激すると、芸術鑑賞力は飛躍的にアップします。腹筋を鍛えるときに、同時に背筋を鍛えるように。美術を鑑賞する「眼」と音楽を鑑賞する「耳」は、同時に鍛えるのがベターなのです。そういう意味では、『東京・春・音楽祭』は芸術鑑賞にはもってこいのシーズン。結果にコミットする春です。


アートテラー・とに〜
 日本でただ一人しかいない、アートテラー。
 「つまらない…」「敷居が高い…」「難解…」とかく、一般の方にはあまり良いイメージの持たれていない“美術”。
 アートテラーとは、そんな“美術”の負のイメージを払拭すべく、わかりやすく、かつ面白いものと感じて頂けるようなトークをする専門職。これまでに横浜美術館や、森美術館、DIC川村記念美術館などで公式トークガイドイベントを担当。また、最近は、雑誌、ラジオやテレビなど、様々なメディアにも進出している。『芸術新潮』にて「ちくちく美術部」を連載中。
アートテラー・とに〜 の【ここにしかない美術室】 http://ameblo.jp/artony/
 

 

 

 

 

 

 

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【アートテラー・とに〜×東京・春・音楽祭×ぶらあぼ コラボ企画】
■アートテラー・とに〜と歩く、眼と耳で楽しむ『東京・春・音楽祭』満喫ツアー」

 アートテラー・とに〜さんといっしょに、実際に美術展とコンサートを楽しんでみませんか?
 アートテラー・とに〜×東京・春・音楽祭×ぶらあぼ コラボ企画として、「シャセリオー展」と「東京・春・音楽祭 ショパン ピアノ協奏曲第1番(室内楽版)」を巡るツアーを4月8日(土)に実施します。

●実施日程:
4月8日(土)13:00〜16:00
・13:00までに国立西洋美術館に集合(※集合場所等の詳細はお申し込みされた方に直接ご案内します)
・13:00〜14:30 シャセリオー展(国立西洋美術館)
・15:00〜16:00  東京春祭コンサート(東京藝術大学 奏楽堂(大学構内))
※以後、任意でカフェで懇談(代金は各自でご負担ください)
●定員:15名
●参加費:4000円(展覧会およびコンサート料金含む)
※コンサートは「ショパン ピアノ協奏曲 第1番&第2番
(室内楽版)〜海老彰子&阿見真依子 都響のメンバーを迎えて」の後半(協奏曲第1番)のみご覧いただけます。
●お申し込み
メールフォームからお申し込みください
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/

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ショパン ピアノ協奏曲 第1番&第2番(室内楽版)
〜海老彰子&阿見真依子 都響のメンバーを迎えて

2017.4.8[土]14:00 東京藝術大学 奏楽堂(大学構内)

■出演
ピアノ:海老彰子、阿見真依子
ヴァイオリン:双紙正哉、横山和加子
ヴィオラ:小島綾子
チェロ:古川展生
コントラバス:山本 修

■曲目
ショパン:
 夜想曲 第4番 ヘ長調 op.15-1
 4手のための変奏曲 ニ長調
 ピアノ協奏曲 第2番 へ短調 op.21 (室内楽版)
 ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 op.11 (室内楽版)

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■『シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才』
2017年2月28日(火)〜5月28日(日) 国立西洋美術館
時間:9:30〜17:30(金曜日は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(3月20日、3月27日、5月1日は開館)、3月21日
料金:一般1,600円 大学生1,200円 高校生800円
※中学生以下、心身に障がいのある方と付添者1名は無料
公式ホームページ: http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/

■国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業
『ミュシャ展』

2017年3月8日(水)〜6月5日(月)国立新美術館
時間:10:00〜18:00(金曜日、4月29日(土)-5月7日(日)は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:火(5月2日(火)は開館)
料金:一般1,600円 大学生1,200円 高校生800円
※中学生以下、心身に障がいのある方と付添者1名は無料
公式ホームページ: http://www.mucha2017.jp