コンシェルジュがおすすめする「東京・春・音楽祭2017」3公演

 3月16日から1ヶ月間にわたり、上野の杜で繰り広げられる「東京・春・音楽祭2017」。日頃からクラシック音楽情報誌「ぶらあぼ」に寄稿していただいている音楽ライター5人に東京春祭の楽しみ方と、おすすめ公演をご紹介いただきます。


■柴田克彦(音楽ライター/音楽評論家)

♪あなたにとっての春祭とは?
 春祭の魅力は、やはり“季節感”に尽きる。暖かくなり始めた春到来の空気と新年度を迎える高揚感の中、広がる上野の森や桜の伴奏で音楽を聴く快さは、春祭以外では味わえない。またミュージアム・コンサートは、美術館や博物館に足を運ぶきっかけになるし、昼公演の後に美術展等を観るのも楽しみのひとつ。音楽的には、ここでしか聴けないスペシャルな企画の多さと、レアな作品の数々を生体験できるのが大きな魅力だ。

♪おすすめ公演
東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.4
シューベルト 《ミサ曲》
〜夭折の作曲家による、最後のミサ曲

2017.4.9(日)15:00
東京文化会館 大ホール

亡くなる年に書かれたシューベルト最後のミサ曲=第6番を、正統派の名匠ウルフ・シルマーの指揮、本場で活躍中のソリスト、そして東京オペラシンガーズの合唱と東京都交響楽団の管弦楽という極上の布陣で生体験できる稀有の機会。渾身の大作にどっぷりと浸れば、シューベルトの宗教曲の深みを再認識し、新たな感動を得られるに違いない。男声合唱と弦楽器5本の異色編成による「水上の精霊の歌」も超レアな1曲。

 

 

 

郷古 廉(ヴァイオリン)&加藤洋之(ピアノ)
〜ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 I

2017.4.13(木)19:00
東京文化会館 小ホール

俊英ヴァイオリニスト陣の中でもとりわけ強い光を放つ郷古廉が、ベートーヴェンのソナタ全曲演奏に初挑戦。ウィーンにおけるライナー・キュッヒルの同チクルスでもピアノを弾いた加藤洋之(郷古の数年来のパートナーでもある)とのコンビネーションも含めて大注目だ。内に炎を秘めたクールな実力者が、いかなるベートーヴェンを聴かせるか? 3年間の旅のスタートを見逃すことはできない。

 

 

 

C)TAKUMI JUN

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.34 北村朋幹(ピアノ)


2017.3.28(火)19:00
東京国立博物館 平成館ラウンジ

俊才ピアニスト・北村朋幹が弾くバッハは、持ち前の才気とセンスからみて期待大。しかも彼は、ベルリン芸術大学に在学し、古楽も学んでいるので、今回はその成果にも注目が集まる。シューマン、細川俊夫、バルトークが並ぶ他の演目は北村の真骨頂。鮮烈なピアニズムが耳と心を刺戟する。

 

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飯尾洋一(音楽ライター)

♪あなたにとっての春祭とは?
 ワーグナーのような巨大な音楽から、シューベルトのような親密な音楽まで、大小さまざまなスケールの公演がそろっているところが東京・春・音楽祭の魅力。多彩な公演日程のなかから、自分なりのテーマを設定してお気に入りのコースを巡るのも楽しい。たとえば、「今年はシューベルトを聴く!」といったように。

♪おすすめ公演
シューベルトの室内楽 I
〜ピアノ五重奏曲 《ます》、ピアノ三重奏曲

2017.3.31(金)19:00
東京文化会館 小ホール

今年はシューベルトの作品をたくさん聴けるのがうれしい。俊英たち5人が集う上野の「シューベルティアーデ」で、室内楽を堪能したい。変則編成の「ます」を名手たちの共演で聴けるのは音楽祭ならでは。4月11日の公演と合わせて足を運べば、長大な傑作ピアノ三重奏を2曲とも聴けるのが吉。
 

 

 

 

 
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8
『ニーベルングの指環』 第3日 《神々の黄昏》
(演奏会形式/字幕・映像付)


2017.4.1(土)15:00
2017.4.4(火)15:00
東京文化会館 大ホール

やはりこの音楽祭の看板はワーグナー・シリーズ。名匠ヤノフスキ指揮NHK交響楽団による4年がかりの「ニーベルングの指環」の記念すべき完結編として、この公演は外せない。ライナー・キュッヒルがゲスト・コンサートマスターを務めるという点でも要注目。強力な歌手陣と精緻なオーケストラが作り上げる、演奏会形式オペラの最高峰。

 

 

トリオ・アコード
〜白井 圭、門脇大樹、津田裕也

2017.4.11(火)19:00
上野学園 石橋メモリアルホール

ハイドン、ラヴェル、シューベルトというそれぞれ時代と性格の異なるピアノ三重奏曲を3曲聴けるという完璧なプログラム。創意と情熱、独自の色彩感にあふれたラヴェル、明朗な歌心と内省的な詩情に満たされたシューベルトを聴けるのは大きな喜びだ。3人の奏者の間に起きる化学反応も聴きもの。

 

 

 

 

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飯田有抄(音楽ライター/翻訳家)

♪あなたにとっての春祭とは?
 春に訪れる上野の森は、独特な空気感に包まれているように感じます。自然と芸術とが一体となって生彩を放ち、強いエネルギーに満ちた場となります。その磁場となるのが「春祭」です。音楽家たちの生み出す瑞々しい響き、室内楽や博物館等のコンサートで身近に感じられる奏者たちの息づかいは、春に生きる喜びを一層深めてくれます。桜と人と芸術と。今年も「春祭」から溢れる音楽の輝きに触れたいと思います。

♪おすすめ公演

C)TAKUMI JUN

ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.34 北村朋幹(ピアノ)


2017.3.28(火)19:00
東京国立博物館 平成館ラウンジ

知性と情熱とを高次元で拮抗させ、研ぎ澄まされた美しい音楽を奏でる北村朋幹。シューマン、細川、バルトークの内省的な作品を、J.S.バッハと対峙させた注目のプログラム。息を飲むほどシリアスで美的なシューマンのフーガで幕開ける。教育者でもあったバッハの顔を知らせる2声のインベンションも、北村がどう響かせてくれるのか楽しみだ。

 

東京春祭 for Kids
音楽物語 《ぞうのババール》〜こどものころのおはなし

2017.3.25(土)11:00開演
東京文化会館 小ホール

春休みの子どもたちと一緒に「春祭」に参加できるコンサート(2歳以下、大人のみの入場は不可)。子どもの柔軟な感性と旺盛な好奇心に、フランスの作曲家プーランクの名作が届きます。大曲のみならず愛らしいピアノ小品のレパートリーも豊富な三浦友理枝と、俳優・石黒賢との組み合わせという楽しみなステージ。親子に嬉しい11時開演、60分のコンサートです。

《24の前奏曲》シリーズ vol.6
ラフマニノフ――ボリス・ギルトブルグ (ピアノ)

2017.4.15(土)18:00
東京文化会館 小ホール

前奏曲とは何の「前奏」なのか。芸術家たちがイマジネーションを自由に飛翔させ、「前奏」であるがゆえに短く凝縮させた形で、個性的な世界観を描き出す《24の前奏曲》シリーズ。今年はラフマニノフだ。抒情的かつ重厚な色合いの濃いラフマニノフのプレリュードを、凛々しく華麗な技巧で聴き手を魅了するギルトブルグがカラフルに聴かせてくれるだろう。

 

 

 


小田島久恵(音楽ライター)

♪あなたにとっての春祭とは?
 東京とその周辺に住むクラシック&オペラ・ファンにとっては春の「お年玉」のような有難いお祭り。世界のハイクラスの演奏家のパフォーマンスを一か月通じて楽しめる、とても有難い音楽祭です。ちょうど上野は桜の季節なので、ピアニストや声楽家の方が桜にインスピレーションを受けた曲を創作してアンコールで演奏してくれることもありました。ハイライトはオペラ! リングは今年で完結しますが、来年以降はプッチーニをぜひ!

♪おすすめ公演
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8
『ニーベルングの指環』 第3日 《神々の黄昏》
(演奏会形式/字幕・映像付)


2017.4.1(土)15:00
2017.4.4(火)15:00
東京文化会館 大ホール

マエストロ・ヤノフスキの壮大なワーグナー宇宙を堪能できるリング四部作の完結編。2016年のウィーン国立歌劇場の来日公演《ワルキューレ》ではヴォータンを歌ったトマス・コニエチュニーが、彼の原点であるアルベリヒを再び演じるのは見逃せません。金子美香さん、小川里美さんら日本人歌手たちの活躍、田尾下哲さんの映像演出にも注目。N響の完成度の高いワーグナーをまた聴けるのも嬉しい。

 

 

東京春祭 歌曲シリーズvol.21
エリーザベト・クールマン (メゾ・ソプラノ)


2017.4.7(金)19:00 
東京文化会館 小ホール

2015年に行った小ホールでのリサイタルが大評判になったクールマン。その公演を昨日のことのように思い出す。慈愛にあふれ、詩情と知性に満ちた表現が649席の聴衆のハートを震わせた。《神々の黄昏》でもヴァルトラウテとして登場するクールマンですが、リサイタルでは一人一人に語り掛けるようなシューベルトやリスト、ブリテンを楽しみたい。

 

 

 

Voice n’ Violin
〜アンドレアス・シャーガー & リディア・バイチ


2017.3.19(日)19:00
東京文化会館 小ホール

昨年の春祭の《ジークフリート》ではタイトルロールをパワフルに演じ切ったアンドレアス・シャーガー。筆者にとってのジークフリート像を新たにしてくれる若々しく楽観的なヒーロー像を見せてくれた。ヴァイオリンのリディア・バイチとトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアとの共演でモーツァルト、ワーグナー、レハールやヨハン・シュトラウスのオペレッタまで歌ってくれる。野生児ジークフリートだけでない、小粋でダンディなシャーガ―を見るのが楽しみ。

 

 

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■林昌英(音楽ライター)

♪あなたにとっての春祭とは?
「ワーグナー・シリーズ」といった世界水準の大規模公演があることは、やはり音楽祭ならではの大きな魅力。それを核としながら、超一流の音楽家が期間中に集まることで、室内楽や歌曲といったアンサンブルの公演が貴重な組み合わせで実現することも、それに匹敵する魅力。各公演の豪華な顔ぶれを見るとどれも逃せず、スケジュール調整が困難になるほど。

♪おすすめ公演
名手たちによる室内楽の極(きわみ)
〜モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト


2017.3.26(日)15:00
東京文化会館 小ホール

信頼しあう音楽家たちが集まって、その名技と情熱をぶつけあう演奏会も、音楽祭の大きな楽しみ。この公演は、出演者たちの親密な交歓が、音楽への愛情と熱気あふれる演奏となっていくことで人気の室内楽シリーズ。今回はメインとしてシューベルト晩年の大作、弦楽五重奏曲に挑戦。現代の弦楽器演奏を牽引する名手たちが集い、「室内楽の極」を堪能させてくれるはず。熱い演奏姿でも知られる長原幸太と鈴木康浩のリードにも注目したい。

 

 

バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテット
〜4本のヴァイオリンによる極上の四重奏

2017.3.29(水)19:00
上野学園 石橋メモリアルホール

ワーグナーの“聖地”の音楽祭で毎年結成されるバイロイト祝祭管弦楽団。そこで長年活躍した4人のヴァイオリニストたちによる「バイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテット」。全員が現在もドイツで演奏や教職の要職を務めている名人ぞろい。ヴァイオリン合奏は爽やかな響きが魅力だが、それに加えて深みや濃密さも期待できるのが彼ら。懐深いアンサンブルでこの編成の真髄を味わいたい。もちろん彼らの《リング》組曲の世界初演は大きな聴きものになる。

 

 

 

郷古 廉(ヴァイオリン)&加藤洋之(ピアノ)
〜ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 I


2017.4.13(木)19:00
東京文化会館 小ホール

期待の若手ヴァイオリニスト郷古廉が、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全10曲に3年をかけて取り組むシリーズ。まだ20代前半ながら、その卓越した技術と輝かしい音色、そして深い芸術性がすでに知られている彼が、いよいよベートーヴェンの高峰に挑む。ピアノに加藤洋之という理想的なパートナーを得て、“期待の若手”から“未来の巨匠”への道を歩み続ける郷古の“いま”を切り取るベートーヴェン。見逃せない公演となる。