今年ではやくも開催4年目を迎え、すでに春の上野の風物詩ともなった感のある「東京のオペラの森」。今回は「チャイコフスキーとその時代」をテーマに、例年にもまして魅力的なイベントが目白押しだ。メイン・ディッシュはもちろん、小澤征爾指揮のオペラ《エフゲニー・オネーギン》。ウィーン国立歌劇場はじめ世界の名だたる歌劇場で同作品の指揮を重ねてきたマエストロ・オザワだが、意外にも日本で振るのは初めて。ダリボール・イェニスら豪華な歌手隙が勢揃いするうえ、演劇畑出身の気鋭の演出家、ファルク・リヒターとタッグを組むなど話題が満載。ウィーン国立歌劇場との共同制作となる舞台だが、東京の上演が先行するので、本家ウィーンでもいまから注目の公演だ。
また、オペラと並んで気になるのが、新国立劇場への登場でもすでにおなじみミヒャエル・ボーダー(指揮)と、ピアノの貴公子ユンディ・リ(ビアノ)を迎えての、東京のオペラの森管弦楽団による公演だろう。名曲ピアノ協奏曲第1番のほか、いささかひねった曲もラインナップされているだけに、チャイコフスキ一の芸術の森にさらに分け入ってみるよい機会となりそうだ。
室内楽では、東京のオペラの森管弦楽団メンバーを中心に、小澤の信頼も厚い演奏家たちによる公演もある。「弦楽のためのセレナード」や晩年の名作「弦楽六重奏曲『フィレンツェの想い出』」というプログラムとあって、オペラやオーケストラともひと味違う、甘く切ないチャイコフスキーの作品世界を堪能できるにちがいない。
今回ムーティの来日はないけれども、在京オケが応援に駆けつける。NHK交響楽団が俊英・下野竜也の指揮でオール・チャイコフスキー・プロ(3/30、東京文化会館)。さらに、今ノリにのっている東京都交響楽団はチェコ音楽界の重鎮ラドミル・エリシュカを指揮壇に迎え、チャイコフスキーの交響曲第5番のほか、同時代の作曲家であるドヴォルザークの交響詩「野鳩」やヤナーチェクの組曲「利口な女狐の物語」を披露するといった具合(4/5、東京藝術大学奏楽堂)。これらはいずれも「NOMORIイベント・ウィーク」の一環で、そのほか美術館や博物館などの上野周辺の文化施設で気軽に音楽を楽しもうという試みもある。たとえば、「語りと音楽〜プーシキンの夕べ〜」(4/16、東京文化会館 小ホール)など、関連テーマに基づく様々な企画公演が全部で17もあるので、あれかこれかと迷う楽しみを噛み締めつつ、チャイコフスキーが生きた時代の空気を、春の上野で存分に味わってみてはいかが。
文:森奈津美
(ぶらあぼ2008年2月号から)
《エフゲニー・オネーギン》
★4月13日(日)、15日(火)、18(金)、20日(日)・東京文化会館
オーケストラ公演
★4月19(土)・東京文化会館
室内楽公演
★4月14日(月)・東京文化会館(小)
●2月11日(月・祝)発売
NOMORIイベント・ウィーク
★3月8日(土)〜4月20日(日)全17公演
●1月27日(日)発売
問:東京のオベラの森03-3296-0600
www.tokyo-opera-nomori.com