【座談会】亀井良信(クラリネット)と仲間たち

 巨匠ブーレーズに認められ、2003年フランスから帰国後はリサイタルや室内楽で活躍する亀井良信が、伊藤圭(N響)、芳賀史徳(日本フィル)、勝山大舗(都響)を迎えて、4本のクラリネットによるコンサートを行う。上野の森美術館の展示室で現代アートとコラボする興味深い公演だ。
(取材・文:柴田克彦 写真:J.Otsuka & M.Otsuka/TokyoMDE)

亀井良信

亀井良信

◆皆さんのご関係と本公演の経緯は?

亀井:芳賀さんと勝山さんは私の教え子で、伊藤さんとは以前から共演を望んでいました。東京・春・音楽祭は“祭り”なので、こうしたメンバーが集まるのも面白いと考えて声をかけ、4人の初コラボが実現しました。

◆東京・春・音楽祭への出演歴と音楽祭に対するイメージは?

勝山:都響の公演で何度か出演しましたが、プログラムも演奏家も多彩で豪華な音楽祭というイメージがあります。

芳賀:私は今回が初めてです。現代音楽やオペラも含めたジャンルが広い音楽祭ですね。私は現代音楽が好きなのですが、こうした音楽祭でなければあまり演奏できません。

伊藤:N響が演奏するオペラで2度出演しました。ワーグナーのような大編成で長いオペラを続けて上演するのは凄いと思いますね。

「東京のオペラの森」のオペラにすべて出演

亀井:「東京のオペラの森」の時代には初回、2005年の《エレクトラ》 http://www.tokyo-harusai.com/program/page_41.html から全てのオペラに出演しています。またムーティ指揮の公演でも演奏し、2009年の「語りと音楽〜太宰 治の世界(生誕100年記念)」ではソロで出演しました。なかでもムーティの指揮でヴェルディの「レクイエム」などを演奏したのは、大きな財産になっています。

亀井良信

亀井良信

◆プログラム全体の特徴は?

亀井:クラリネット・アンサンブルの公演は編曲物が多いのですが、今回は大半がオリジナルの作品。特に、追悼する形となったブーレーズと、後に続くコネッソンやベッファといったフランスの新しい作曲家をご紹介します。

この顔ぶれでこそ聴ける作品

勝山:テクニカルなベッファやコネッソンの作品は、こうした顔ぶれでないと演奏できませんので、まずこの2曲を聴けるのが妙味と言えます。さらには、モーツァルト、トマジのようなクラリネット・アンサンブルのスタンダードや、ジャンルが異なるピアソラの曲など、幅広い内容となっています。

芳賀:フランス音楽の流れ、特に新しい世代の音楽を、クラリネット4本という普段接する機会が稀な編成で聴くのは、とても新鮮だと思いますし、技巧と音楽の両面でクラリネットの可能性を知ることができます。

勝山大舗

勝山大舗

芳賀史徳

芳賀史徳

◆各曲の編成と特徴を、まずは前半から。

亀井:モーツァルトの「ディヴェルティメント」は3本での演奏。最初に聴きやすい曲で、クラリネットの響きを知っていただけます。トマジの「3つのディヴェルティメント」は4本のオリジナル曲。パリの移動遊園地の雰囲気をもった、不思議な感覚の作品です。アルベニスの「セヴィーリア」は3本+バスクラリネット。以前二人(芳賀、勝山)と演奏しましたが、いい編曲なのでここでも取り上げたいなと。ベッファの「花火」は、E♭管1、B♭管2、バス・クラ1。滅茶苦茶難しいのですが、テクノ音楽風でとにかくカッコよく、花火の描写がとてもカラフルです。

絵画もスタッフも共演者?!

◆ブーレーズの「ドメーヌ」は、亀井さんのソロですね。

亀井:6つの断片=6枚の楽譜を、どの順番に吹いても、縦横どちらに読んでもいいという“偶然性”の音楽です。ですから2度と同じ演奏にはなりません。また今回は6枚の絵の前に楽譜を置き、閃きで移動しますので、現代美術との融合という偶然性も加わります。さらには楽譜を(自由に)譜面台に置く舞台スタッフも共演者になります。

◆ではあとの3曲について。

亀井:プーランクの「2つのクラリネットのためのソナタ」は、B♭管とA管のデュオ。伊藤さんと勝山さんが演奏します。勝山さんは都響の2番&バス奏者で、その前任が伊藤さん。都響の新旧2番奏者のデュオを純粋に聴いてみたかった(笑)。それにB♭管とA管の違いがよくわかる曲でもあります。

伊藤:定番のプーランクは何度か演奏していますが、絵画とのつながりがイメージしやすい曲だと思います。

亀井:ピアソラの「3つのタンゴ」は3本+バス・クラ。ムーディーな箸休めです。コネッソンの「前奏曲とファンク」は、A管1、B♭管2、バス・クラ1の編成。パンクやディスコ・ミュージックが融合した、アメリカのジョン・アダムスのような雰囲気をもつ作品で、進むにつれてぐんぐん楽しくなります。コネッソンはこれから出てくる人だと思いますし、ぜひ聴いていただきたい1曲です。

勝山:私が吹くバス・クラは凄く難しいのですが……(笑)。

亀井:バス・クラが普段は考えられない動きをしますので、そこも聴きどころですね。

◆皆さんにとって、クラリネット・アンサンブルの魅力とは?

勝山:完全に同じ発音体のアンサンブルなので、楽器の特性を最大限に発揮できます。

芳賀:クラリネットが複数集まったときの音色や、1本、2本……と増えたときの音色変化が妙味です。

伊藤:やはり音域と音色の幅広さですね。今回も、素朴で温かな音から電子音楽風の音まで、様々なテイストを味わえます。

亀井:エス(E♭)からバス・クラまで揃ったときの音域の広さは、他の楽器にはない魅力。4人で演奏するとパイプオルガンのような響きになります。

伊藤圭

伊藤圭

◆最後に、ファンに向けてひとこと。

亀井:別々に活動しているプロのクラリネット奏者が集まる機会は、滅多にありませんので、今回は互いに刺激になります。またお客様は、いつも遠くからご覧になられている楽器に間近で接することができますし、吹奏楽等の経験のある方を含めて、幅広い方々に来ていただけたら嬉しいですね。

左より)勝山大舗、芳賀史徳、亀井良信 、伊藤圭

左より)勝山大舗、芳賀史徳、亀井良信 、伊藤圭

■ミュージアム・コンサート
亀井良信(クラリネット)〜現代美術と音楽が出会うとき
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3173.html
2016.3.25[金]19:00 上野の森美術館 展示室

■出演
クラリネット:亀井良信、伊藤 圭、芳賀史徳、勝山大舗
■曲目
モーツァルト:ディヴェルティメント 第3番 変ロ長調 K.229(439b)
トマジ:3つのディヴェルティメント
アルベニス(カラベル編):セビーリャ
ベッファ:花火
ブーレーズ:ドメーヌ〜クラリネット独奏のための
プーランク:2つのクラリネットのためのソナタ
ピアソラ:3つのタンゴ
コネッソン:前奏曲とファンク