今年も多彩な公演がずらりと並んだ東京・春・音楽祭。3月13日に開幕を迎え、4月12日までの1ヵ月にわたって、有料・無料の130を超える公演が開催される。今からでも間に合う注目公演を選んでみよう。
歌曲シリーズにはスミスとクールマンが登場
まずは毎年世界のトップレベルで活躍する歌手が招かれる《歌曲シリーズ》から。今回はテノールのロバート・ディーン・スミス(4/10)とメゾソプラノのエリーザベト・クールマン(4/11)がリサイタルを開く。ロバート・ディーン・スミスといえば現代屈指のヘルデン・テノール。バイロイト音楽祭をはじめ世界の主要歌劇場で華々しい活躍を続けている。今回はシューマン、ワーグナー、R.シュトラウスらのドイツ歌曲に加えて、トスティらのイタリア歌曲も披露される。ウィーン国立歌劇場他での活躍で注目を集めるエリーザベト・クールマンは、リスト、ワーグナー、シューマン、シューベルト他を歌う。ネトレプコ、ガランチャに並ぶ実力と美貌を兼ね備えたプリマドンナとの呼び声も高い。
今年も内容盛りだくさんのマラソン・コンサート
丸一日をかけてひとつのテーマを味わい尽くす『東京春祭マラソン・コンサート』(4/5)も好企画だ。今年は「《古典派》~楽都ウィーンの音楽家たち」をテーマとした5部構成。没後200年を迎えた音楽興行師ザロモンと、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった作曲家を軸に、多角的に楽都ウィーンの姿を浮かび上がらせる。11時開演の第1部から、19時開演の第5部まで、ヴァイオリンの桐山建志、松山冴花、ピアノの佐藤卓史、フルートの有田正広、神田寛明など、名手たちが次々と登場する。ザロモン自身による編曲作品に加え、特に気になるのは、フンメルが室内楽版に編曲したモーツァルトの交響曲第40番(第3部)および同第41番「ジュピター」(第5部)だろうか。
ヤナーチェクの魅力に迫る
知られざる作曲家に光を当てる《東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ》第2弾は、「ヤナーチェク──ないしょの手紙」と題して、この作曲家の初期作品から最晩年の弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」までがとりあげられる(3/28)。出演はソプラノの小林史子、ピアノの寺嶋陸也、姫野真紀、クァルテット奥志賀、解説・企画構成は中村真。1公演まるごとヤナーチェク作品のみで構成される公演は貴重だ。
アートと音楽の両方を愉しめるミュージアム・コンサート
ミュージアム・コンサートは上野を舞台にしたこの音楽祭ならではの公演だ。国立科学博物館日本館講堂では「武満徹の世界~川崎洋介と仲間たち」が2公演、開催される。「武満徹の世界I」(4/10)では武満の「カトレーンII」とラヴェルのピアノ三重奏曲他、「武満徹の世界II」(4/11)では武満の「ビトゥイーン・タイズ」とメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」他が並置され、20世紀音楽の諸相に光を当てる。川崎洋介のヴァイオリン、ヴォルフラム・ケッセルのチェロ、ヴァディム・セレブリャーニのピアノに、クラリネットのショーン・ライスが加わる。
また国立西洋美術館講堂では『グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家』記念コンサートとして、阿部早希子のソプラノとつのだたかしのティオルバによるデュオ(4/8)と、江崎浩司のリコーダーおよびバロック・オーボエを中心としたアンサンブル(4/9)による2公演が開催される。国立西洋美術館主任研究員の渡辺晋輔による解説付き。せっかくの機会なのでグエルチーノ展と合わせて、イタリアのバロック音楽とバロック美術の両方を楽しみたい。
なお、音楽祭期間中は「桜の街の音楽会」として、上野エリアを中心に街のあちこちで小さな無料コンサートが開かれる。サックス四重奏や弦楽四重奏、フルート・デュオなどが、音楽祭の華やぎをいっそう高めてくれる。
文: 飯尾洋一
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年4月号から)
東京・春・音楽祭 ―東京のオペラの森2015―
3/13(金)~4/12(日)
東京文化会館、上野学園石橋メモリアルホール、東京芸術大学奏楽堂、東京国立博物館、
国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館 他
※音楽祭の詳細情報は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tokyo-harusai.com