上野の春を華やかに彩る音楽祭として、すっかり定着した《東京・春・音楽祭》。その2013年の公演詳細が発表された。
第9回目を迎える今回は、3月15日から4月14日までの1ヶ月間にわたって、約100公演が開かれる。オーケストラ、オペラ、バレエ、室内楽など、例年にも増して幅広いジャンルにわたって公演が企画されている。
とりわけ注目されるのが、恒例〈東京春祭ワーグナー・シリーズ〉の楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(演奏会形式)だろう(4/4,4/7・東京文化会館)。ワーグナー生誕200周年にふさわしく、今回も非常に強力なキャストがそろった。
指揮を務めるのはセバスティアン・ヴァイグレ。ワーグナー上演の聖地バイロイト音楽祭では2007年に《ニュルンベルクのマイスタージンガー》でデビューを飾っており(カタリーナ・ワーグナーの演出によるプロダクションが話題を呼んだ)、以来2011年まで継続して同作品を指揮、ワーグナー指揮者としての名声を高めることになった。放送やネット配信を通じて、その精彩に富んだ演奏を耳にした方も少なくないはず。1961年ベルリン生まれ。NHK交響楽団から精妙で雄弁な音楽を引き出してくれることだろう。
歌手陣にはハンス・ザックスにアラン・ヘルド、ヴァルターにクラウス・フロリアン・フォークト、エファにガル・ジェイムズ、ベックメッサーにアドリアン・エレート、ポークナーにギュンター・グロイスベックなど、トップレベルの歌劇場で活躍する実力者が並んだ。クラウス・フロリアン・フォークトとギュンター・グロイスベックは、今年の新国立劇場《ローエングリン》で好評を博したのが記憶に新しいところ。
今回、ワーグナーと並んでもう一方の目玉となるのが、ストラヴィンスキーのシリーズだ。前回はインバル指揮東京都交響楽団によるオーケストラ・コンサートが開かれたが、今回はバレエとして「アポロ」と「春の祭典」の2作品が上演され、さらに大きな注目を浴びることになりそう(4/14・東京文化会館)。振付家パトリック・ド・バナの新作となる「アポロ」(ストラヴィンスキーの作品名は「ミューズを率いるアポロ」)ではウィーン国立バレエ団のメンバーを迎える。演奏は長岡京室内アンサンブル。初演から100周年を迎える「春の祭典」はモーリス・ベジャールの振付で、東京バレエ団、ジェームズ・ジャッド指揮東京都交響楽団による上演となる。いまや管弦楽作品としては古典となった「春の祭典」だが、有名な初演時の大スキャンダルはバレエ作品としての革新性があったからこそ。やはりバレエ音楽は、バレエとしての上演を観ておきたいものである。
両企画以外にも魅力的な公演が並ぶ。ワーグナーと並んで生誕200周年を迎えるヴェルディからは、《ファルスタッフ》が吉川健一の題名役、マウリツィオ・カルネッリのピアノ、田口道子の構成・演出で上演される(3/30・上野学園石橋メモリアルホール)。また、室内楽では、バイロイト祝祭管弦楽団メンバーによるバイロイト祝祭ヴァイオリン・クァルテットの公演が興味深い(4/5・東京文化会館小)他にも、新たな音響空間を創出する「ircam×東京春祭」(4/5・日経ホール)や、原田禎夫チェロ・シリーズ(3/31,4/11・東京文化会館小)、そして〈東博でバッハ〉シリーズといった、この音楽祭ならではの多数のミュージアム・コンサート、聴きたい公演を挙げればきりがない。春の訪れがいっそう待ち遠しく感じられそうだ。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2012年12月号から)
★2013年3月15日(金)〜4月14日(日)・東京文化会館、上野学園石橋メモリアルホール、旧東京音楽学校奏楽堂、東京国立博物館、国立科学博物館、国立西洋美術館、東京都美術館、上野の森美術館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会事務局03-3296-0600
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