“20世紀の英国で最も重要な作曲家”ということは、みんな頭ではわかっている。だが、いくつかの有名な作品を除いて、なかなかその全体像に迫ることができずにいる――それがベンジャミン・ブリテン(1913〜76)受容の実情ではないだろうか?
東京春祭は、このブリテンを2017年からスタートした5年計画という長期にわたってシリーズとして取り上げ続けている。作曲家・加藤昌則が企画構成し、時には指揮を、そしてピアノを弾きトークをおこなう『ベンジャミン・ブリテンの世界』。今年はコロナ禍の影響で「番外編」となる。
4年目にあたるはずだった昨年予定されていたオペラ《ノアの洪水》についてのレクチャーが今回のメインである。来年の本格上演に向けての予習という意味もあるが、それ以上に、ブリテンのオペラの音楽的な面白さを演奏付きで解きほぐしてもらえるという意味でも、最高の機会となるはずである。筆者も自分の番組に加藤さんにゲストで登場していただいた際にピアノ演奏付きで解説していただいたことがあるが、とても分かりやすくブリテンの音楽構造が理解でき、本当にためになった。
その他の演奏楽曲では、リコーダーのための「アルプス組曲」とオルガンのための「ヴィットリアの主題による前奏曲とフーガ」はとても親しみやすい。〈ウィリアム・ブレイクの歌と格言〉と〈子守歌のお守り〉の抜粋は、それぞれ宮本益光と波多野睦美が歌うが、前者の煙の描写は加藤によれば「オペラ《ヴェニスに死す》の霧にも通じる」ものがあり、後者の「微妙な距離感はゴーヤのような苦みがあってくせになる」という。この“ゴーヤのような苦み”というのは調性音楽を離れなかったがどこか不思議な響きの新しさを持つブリテンの魅力の一端を言い得て妙である。「シンプル・シンフォニー」の弦楽五重奏版は、本来の室内オケ用スコアを各パートをソロで演奏する方式で、作曲家の原点ともいえるこの名作をより鮮明に味わう絶好の機会となるだろう。
文:林田直樹
【公演情報】
ベンジャミン・ブリテンの世界 番外編
20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像
2021.4/11(日) 15:00
東京藝術大学奏楽堂(大学構内)
●出演
企画構成 / ピアノ / お話:加藤昌則
バリトン:宮本益光
メゾ・ソプラノ:波多野睦美
ヴァイオリン:川田知子、吉村知子
ヴィオラ:須田祥子
チェロ:小川和久
コントラバス:池松 宏
リコーダー:吉澤 実
打楽器:神田佳子
オルガン:三原麻里
●曲目
ブリテン:
アルプス組曲
ヴィットリアの主題による前奏曲とフーガ
ウィリアム・ブレイクの歌と格言 op.74 より
子守歌のお守り op.41 より
ジミーのために〜ティンパニとピアノのための
レクチャーコーナー:歌劇 《ノアの洪水》 op.59(実演を交えながら《ノアの洪水》を解説)
シンプル・シンフォニー op.4
※当初予定しておりました出演者・プログラムより変更となりました。
●料金(税込)
S¥5,000 A¥3,500 U-25¥1,500
ライブ・ストリーミング配信 ¥1,500
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