感染症の打撃を最初に受けた昨年の東京・春・音楽祭から一年。まだ事態は収束していないが、それでも春は来て、桜が咲き、東京春祭も復活する。プログラムも昨年を引き継いだものが少なくない。関係者は未だぎりぎりの調整を続けていると聞くが、貴重なラインナップから聴きどころを追っていこう。
東京春祭オケによるモーツァルトの二大交響曲や、
ムーティのオペラ・アカデミー《マクベス》ほか合唱の名演にも期待
東京春祭の目玉は何といっても歌。毎年、記憶に残るオペラや合唱の名演を刻んできた。今年もてんこ盛りだ。
まずは今年80歳を迎える帝王リッカルド・ムーティが、自らが体現してきたイタリア・オペラの上演の伝統を次世代に伝える講習会「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」から。2019年に《リゴレット》で始まり、今年は昨年から延期になっていた《マクベス》(ヴェルディ)が取り上げられる。
若い歌手と指揮者、そして若手奏者からなる特別編成オーケストラが、約1週間にわたりムーティからみっちりと稽古を受け、その成果を披露(4/20)、マエストロ自身はタクトを執る(4/19, 4/21)だけでなく、イタリア人らしいウィットに富んだトークでも楽しませてくれる(4/9)。
また前回の共演に満足したムーティの発案で、東京春祭オーケストラとモーツァルトの二大交響曲「ハフナー」「ジュピター」を披露する2公演が追加発表された。音楽祭のクロージングにあたるこの演奏会は、上野を飛び出しミューザ川崎シンフォニーホールと紀尾井ホールで行われる(4/22, 4/23)。異なる環境でのオケの鳴りの違いにも注目したい。
強力な一体感を誇る東京オペラシンガーズが合唱に入る公演も見逃せない。「合唱の芸術」シリーズでは、ドイツ語圏を拠点にオペラ指揮者として名高いシュテファン・ショルテスが東京都交響楽団を相手にモーツァルトの「レクイエム」を披露(4/11)、読売日本交響楽団が手掛けるプッチーニ・シリーズでは、イタリアで注目のオペラ指揮者フランチェスコ・イヴァン・チャンパが《ラ・ボエーム》を振る(4/15, 4/18)。
日本勢の活躍が光る室内楽公演も充実のラインナップ
室内楽関連でも興味深い企画が多数進行中だ。
一つのテーマを軸に時代背景と併せ音楽を聴くマラソン・コンサート、今年のお題は「メルヒェンの時代へ…フンパーディンク没後100年に寄せて」だ。森を舞台に魔法が重要な役割を果たすメルヒェン・オペラはドイツ音楽の重要な一ジャンル。今でもドイツではクリスマスシーズンになると《ヘンゼルとグレーテル》が劇場の演目を飾る。今年はその作曲者へのオマージュとして、メルヒェンを巡る音楽を追っていく(4/10)。
東京春祭はこれからを担う若手・中堅世代が切磋琢磨していく場にもなっている。昨年、ベートーヴェンのトリオ全曲演奏で鮮烈な存在感を示したトリオ・アコード(ヴァイオリン:白井圭、チェロ:門脇大樹、ピアノ:津田裕也、3/29)、郷古廉(ヴァイオリン)と加藤洋之(ピアノ)はチェロの横坂源とともに(4/16)、いずれも東欧や西アジアのエキゾティックな作品を聴かせてくれる。
古楽系ではフォルテピアノの川口成彦を独奏者に据えたラ・ムジカ・コッラーナによる古典派プログラム「ピリオド楽器で聴くモーツァルト&ベートーヴェン」(4/12)や、チェンバロ&バロック・ハープの西山まりえをはじめ、定評のある古楽奏者たちが結集した「イタリア〜狂熱のバロック歴遊」(4/17)が面白そう。
ストラヴィンスキー(4/8)やブリテン(4/11)といった、一人の作曲家を継続的に紹介するシリーズも名曲・珍曲を取り揃え、ここでしか聴けないプログラミングとなっている。
アートと音楽のコラボレーション! 東京春祭ならではのコンサート上野は明治以降、文化の発信地として発展し、戦前の建築様式を残した東京国立博物館をはじめ美術館・博物館がひしめいている。アートを感じられる空間で行われる音楽会にも、また格別な趣がある。
定番となった「東博でバッハ」シリーズ、今年はギターの大萩康司(3/23)、チェロの木越洋(3/29)、ピアノの菊池洋子(3/30)、サクソフォンの住谷美帆(4/15)、ヴァイオリンの玉井菜採(4/21)の5回が組まれている。アコーディオン(大田智美)と共演する住谷、エネスクやイザイをプログラムに組み込んだ玉井の回がユニークだ。
東京都美術館では「美術と音楽」をテーマに、各演奏家が自分のお気に入りの美術作品に関連する作品を演奏する(4/3, 4/4, 4/11, 4/13, 4/16)。改修休館中の西洋美術館でのコンサートは東京文化会館小ホールに移動、同美術館の松方コレクションに含まれるミレー、ドニの名品にちなんだ作品を取り上げる(3/20, 3/24)。上野の森美術館では現代美術の最先端を展望するVOCA展とのコラボ企画として、「現代美術と音楽が出会うとき」をテーマに2つのコンサートが予定されている(3/20, 3/27)。
ほかにも子どもが楽しめる東京春祭 for Kids「子どものためのワーグナー《パルジファル》」(3/27, 3/28, 3/31, 4/3, 4/4)や、未だ流動的だが海外勢による歌曲シリーズなど、注目公演が目白押し。公式サイトを要チェック!
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年4月号より)
【information】
東京・春・音楽祭 2021【配信あり】
2021.3/19(金)〜4/23(金)
東京文化会館 東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、上野の森美術館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-5205-6497
https://www.tokyo-harusai.com
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。