東京・春・音楽祭 2021の聴きどころ

東京春祭ワーグナー・シリーズ《さまよえるオランダ人》(2019年)より
C)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

 今年も春の上野を舞台に「東京・春・音楽祭」が開催される。期間は3月19日から4月23日にわたる約1ヵ月間。昨年はウイルス禍で多くの公演が中止となった同音楽祭だが、今回、例年同様に多彩なプログラムが用意されたことはうれしい限り。全プログラムの有料ライブ・ストリーミング配信(一部を除く)も実施される。

 注目の「東京春祭ワーグナー・シリーズ」は、マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団による《パルジファル》(演奏会形式)で新たなフェーズを迎える(4/2,4/4)。シリーズ第1回目の作品が帰ってきた。リッカルド・ムーティの「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」では、昨年から延期となった《マクベス》がとりあげられる(4/9〜4/21)。巨匠の奥義が伝授されることだろう。さらにムーティは日本の若手トップ奏者たちを集めた東京春祭オーケストラを指揮し、モーツァルトの「ハフナー」と「ジュピター」の2曲の交響曲を披露する(4/22,4/23)。

 「東京春祭プッチーニ・シリーズ」は《ラ・ボエーム》(演奏会形式)(4/15,4/18)。アドリアナ・ゴンザレス、ジョシュア・ゲレーロらの独唱陣がフランチェスコ・イヴァン・チャンパ指揮読売日本交響楽団と共演する。第8回を迎える「合唱の芸術シリーズ」では、経験豊富な実力者シュテファン・ショルテスが東京都交響楽団と東京オペラシンガーズとともにモーツァルトの「レクイエム」に取り組む(4/11)。

リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.1(2019年)より
C)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

 これら大型公演に加えて、室内楽にも意欲的な企画が並ぶのが「東京・春・音楽祭」の大きな特徴だ。
 まず3年にわたる新シリーズとしてスタートするのが、白井圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)によるトリオ・アコードのボヘミア・プログラム(3/29)。ドヴォルザークのピアノ三重奏曲第1番および第4番「ドゥムキー」、マルティヌーのピアノ三重奏曲第2番が演奏される。3年がかりでドヴォルザークのピアノ・トリオ全曲を制覇するという。知られざる傑作との出会いが待っている。

 気鋭の若手ヴァイオリン奏者、郷古廉は加藤洋之(ピアノ)と横坂源(チェロ)とともに東欧の作曲家たちに光を当てる(4/16)。エネスクのヴァイオリン・ソナタ第3番「ルーマニア民俗音楽の性格で」をはじめ、ヤナーチェク、マルティヌー、ハチャトゥリアン、ヴラディゲロフ、ツィンツァーゼの作品が並ぶ。こちらも発見の多い公演となりそう。

 「N響メンバーによる室内楽」では、今年没後100年となるサン=サーンスの「動物の謝肉祭」、七重奏曲変ホ長調をメインに(3/20)。「都響メンバーによる室内楽」ではドヴォルザークの弦楽五重奏曲第2番、リヒャルト・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」弦楽七重奏版(R.レオポルト編)が聴きもの(4/13)。ともに名手たちによるアンサンブルの妙を楽しめるだろう。

 記念の年を迎える作曲家では、没後50年のストラヴィンスキーも忘れるわけにはいかない。永野英樹(ピアノ)、川田知子(ヴァイオリン)、松本健司(クラリネット)が「兵士の物語」他の室内楽作品をとりあげる(3/24)。また、荘村清志(ギター)と藤木大地(カウンターテナー)による「にほんの歌を集めて」では、没後25年の武満徹の作品が何曲も歌われる(3/20)。百花繚乱のプログラムがそろった。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2021年3月号より)

*緊急事態宣言の発令に伴う入国制限の影響により、一部公演が中止となりました(3/11主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。


東京・春・音楽祭 2021 【配信あり】
2021.3/19(金)〜4/23(金) 東京文化会館 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-5205-6497
https://www.tokyo-harusai.com

※各公演、発売日の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。