上野の杜の春を彩るクラシック音楽の祭典「東京・春・音楽祭 2021」が、2021年3月19日から4月23日までの約1ヵ月にわたり開催される。
例年、開催前年の10月には記者発表があり、11月から12月にかけてチケット第1弾発売、というスケジュールだ。10月1日付で実行委員会から「東京・春・音楽祭2020 ご支援への御礼」と題するコメントが出され、2021年の開催については「年内に皆さまにお知らせができるよう、準備を重ねております」との発表があった。しかし、合唱を含む大曲やオペラの上演、来日演奏家も多い東京春祭だけに、コロナ禍のもと、例年通りの開催は難しいのでは? 開催されるとしても規模は縮小されるのでは? などと気をもんでいたファンも多いことだろう。
この12月、発表となった概要をみると、縮小どころか例年と同じ規模、いや、それを上回るほどの内容となっている。実行委員会の発表によると、「新型コロナウイルス感染予防、拡散防止への対応策を徹底」した上で、「以前より構想していたプログラム」で開催。さらに「期間半ばで中止となった2020年の公演の一部延期」も含め、より充実したラインナップを予定しているという。今春、楽しみにしていた公演が中止・延期となって涙をのんだ多くのファンは、ふたたび来春へと期待が持てる。これは喜ばしい限りだ。
東京春祭は、新たなフェーズへ
「長い冬が終わり、桜前線の知らせが聞こえ始める3月中旬に始まり、街が桜色に染まり、花吹雪から新緑を感じるまでの間、街が華やかに変化するときの躍る心をクラシック音楽で祝いたい」と、2005年「東京のオペラの森」として始まった東京春祭は、09年より「東京・春・音楽祭」として再出発。11年には東日本大震災の影響で一部中止を余儀なくされた。そうした苦難を乗り越えてきた東京春祭は、来春、みたび生まれ変わる。その象徴が、《パルジファル》の上演とメインビジュアルのリニューアルだ。
《パルジファル》は、10年に「東京春祭ワーグナー・シリーズ」の第1回を飾った演目。いまや「東京春祭の顔」とも言える、マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団が高らかに、「復活」と「再生」を宣言する。
デザインのリニューアルを手がけた、日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりである鈴木一誌は、「連続しながらも変化をしていく『東京・春・音楽祭』にふさわしい」ビジュアルだと自負する。
巨匠リッカルド・ムーティとブルーノ=レオナルド・ゲルバー
さて、プログラム全体に目を向けてみよう。ここではやはり、延期となっていた巨匠リッカルド・ムーティによるイタリア・オペラ・アカデミー in 東京の実施と、ムーティが指揮する歌劇《マクベス》の公演に注目が集まる。出演者は今春予定されていたメンバーとほぼ同じ。世界的な名歌手たちが揃う。
音楽祭の開幕を飾るのは、現代を代表する世界的ピアニストのひとり、こちらも巨匠ブルーノ=レオナルド・ゲルバーのベートーヴェンだ。
中止・延期公演の開催
今春、残念ながら中止となった公演も、続々と復活。マルクス・アイヒェ(バリトン)とクリストフ・ベルナー(ピアノ)が「東京春祭 歌曲シリーズ vol.28」でブラームスの大作を披露するほか、川口成彦(フォルテピアノ)、オリ・ムストネン(ピアノ)、デジュー・ラーンキ(ピアノ)らも今春予定していた内容で公演を行う。
「ベンジャミン・ブリテンの世界 IV」では、満を持して歌劇 《ノアの洪水》が上演される。「東京春祭プッチーニ・シリーズ」は、vol.2として《ラ・ボエーム》で始動する。
注目の公演が続々と!
真新しいところでは、カール・ベームやヘルベルト・フォン・カラヤンらの薫陶を受けたシュテファン・ショルテスが待望の来日。「東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.8」でモーツァルト《レクイエム》を。クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)がシューベルトの歌曲集「白鳥の歌」を歌う「東京春祭 歌曲シリーズ vol.33」も聴き逃せない。同シリーズにはエギルス・シリンス(バスバリトン)、アンドレアス・シャーガー(テノール)らの名も。常連、ベルリン・フィルのメンバーも来日する。
郷古廉(ヴァイオリン)と加藤洋之(ピアノ)の「東京春祭〈Geist und Kunst〉室内楽シリーズ vol.1」も始動する。
東京春祭史上初、全プログラムのライブ・ストリーミング配信
コロナ禍への対応策として、東京春祭では初の試みとして、全プログラムのライブ・ストリーミング配信が行われる(アカデミー講演を除く。有料。詳細は2021年2月頃を予定)。「あらゆる状況下でも音楽」を届け、また「様々な事情で来場できない方」にも、楽しんでもらおうという試みだ。
ミュージアム・コンサート、桜の街の音楽会も実施
まだ詳細が発表されていないが、例年通りミュージアム・コンサートが開催されるほか、街角で気軽に音楽を楽しめる無料のミニ・コンサート「桜の街の音楽会」も実施される予定だ。こちらも期待して待ちたい。「東京春祭 for Kids 子どものためのワーグナー」は親しみやすくアレンジした《パルジファル》だ。
なお、上野の杜を拠点とした東京春祭だが、来春はミューザ川崎シンフォニーホールと紀尾井ホールでも公演を行う。演奏は、ムーティ指揮東京春祭オーケストラ。
公演のチケットは2021年1月11日(月・祝)10時より順次発売予定。
【Information】
東京・春・音楽祭
2021.3/19(金)〜4/23(金)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園 石橋メモリアルホール 他
https://www.tokyo-harusai.com