東京から世界に発信する音楽芸術フェスティバルとして、2005年から続いている「東京のオペラの森」。桜がもっとも美しい季節、桜の名所として有名な上野近隣を舞台にしたこの音楽祭が「東京・春・音楽祭」という新たな名称も加わって、3月12日から4月16日まで開催される。
●まず注目は、NHK交響楽団によるハイドンの《天地創造》。ご承知のとおり、2009年はハイドン没後200年というハイドン・イヤー。古典派のレパートリーはもちろん、オペラでも定評のあるレオポルド・ハーガーがタクトを振るのも楽しみだが、ソリストも豪華絢爛。ムーティとの共演でも知られるソプラノのタチアナ・リスニック、次代のスター最有力候補のテノール、セミール・ピルギユ、世界の主要歌劇場での出演が相次ぐバスのアイン・アンガーといったメンバーが揃う。この作品では壮大な合唱も魅力だが、東京オペラシンガーズが重責を担う。ハイドン・イヤーの中でもとりわけ話題の公演になるのはまちがいない。
★3/27(金)、3/29(日)・東京文化会館
●さらにファン待望の声楽演奏会も行われる。4月9日は名匠フィッシヤー=ディースカウの後継者といわれるドイツ・リートのホープ、ディートリヒ・ヘンシェルのリサイタル。端正なディクションと知的な解釈を武器に、「野ばら」などのシューベルトの名曲と得意のマーラーの「子供の魔法の角笛」などを披露する。
★4/9(木)・東京文化会館(小)
●カウンターテナーのスターも登場する。ウィーン少年合唱団在籍中、ひときわ美しい声で世界の聴衆を魅了したマックス・エマニュエル・チェンチッチが、モーツァルト、ロッシーニなどを歌う。オペラでも活躍中のその神々しく天上的な美声が、桜の咲き乱れる上野の春を華やかに彩ってくれるにちがいない。
★4/10(金)・東京文化会館(小)
●日本人の実力派の演奏家も今回多数出演するが、オーボエの貴公子、広田智之が気鋭のウェールズ弦楽四重奏団と共演するコンサートは、室内楽ファンならずとも必聴である。難関で知られるミュンヘン国際コンクールで見事3位に輝いた日本のクァルテットの出演は、とても楽しみだ。
★3/21(土)・旧東京音楽学校奏楽堂
●「東京・春・音楽祭」では上野の美術館などさまざまな場所での演奏会が企画されているが、そのひとつが東京国立博物館でのバッハ・シリーズ。コンサート当日は博物館の常設展も観覧可能というお得な企画で、ピアノの神谷郁代、チェロの向山佳絵子、そしてヴァイオリンの渡辺玲子という日本を代表するソリストが出演する。
★3/15(日)神谷郁代、3/18(水)向山佳絵子、3/28(土)渡辺玲子・東京国立博物館
●音楽のみならず美術の発信地でもあり多彩な美術館を擁する上野。そんな上野ならではの企画が「絵と音楽パウル・クレー」である。クレーは音楽家の両親をもつ画家でその作風はとても音楽的だ。俊英ヴァイオリニスト佐藤俊介が、大人から子供まで楽しめるプログラムを披露。子供は3歳から入場可能だ。
★4/13(月)・東京文化会館(小)
●「春が来た 篠崎史紀と仲間たち」では、N響のコンサートマスターとしてオーケストラ、そして室内楽でも大活躍中の篠崎と彼の信頼の厚いアーティストたちによるアンサンブルが、ヴィヴァルディの「四季」、早川正昭の「日本の四季」他、春にちなんだプログラムで、祝祭的な気分を盛り上げてくれる。
★4/16(木)・東京文化会館(小)
盛り沢山の内容で書き切れないが、来年以降も、リッカルド・ムーティ指揮の「カルミナ・ブラーナ」やウルフ・シルマー指揮の《パルジファル》(演奏会形式)など、多彩な企画が予定されている。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2009年3月号から)
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-3296-0600
http://www.tokyo-harusai.com/