蔵(KURA)シック2016●(2)「味噌坐 玉響(たまゆら)」

 東京・春・音楽祭でクラシック音楽を存分に聴いたら、酒処で美味しいつまみと音楽談義を肴に日本酒を嗜む。
また、少し日本酒をひっかけたあとで、美しい音楽を鑑賞する・・・

 上野&湯島&根津エリアには、こだわりの地酒を揃える居酒屋の名店があちこちにあります。このコーナーでは、個性豊かな3店をご紹介し、日本酒とクラシック音楽のステキな関係に皆さんを誘います。

取材・文:山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)
コンサートのセレクト&文&写真:編集部

 年季の入った築60年の古民家を改装した居酒屋。「味噌坐 玉響」は、全国各地の味噌を使った料理が味わえる店である。
 飲んべえにはたまらない鯛や梅を練り込んだ「嘗め味噌」にはじまり、旬の魚を味噌で漬けた西京焼やジビエ、味噌を造るときに出てくる上澄みの“味噌溜まり”を入れた「肉豆腐」などを提供。全国各地30蔵の味噌を素材によって使い分け、これぞアテ、といった酒がほしくなる一品に仕上げている。

 そんな料理をむかえてくれる日本酒は、「鷹来屋」のようなスッキリ系から、骨格がしっかりした「秋鹿」まで約30種類ある銘柄はバラエティに富む。さらに、温度帯も冷たい温かいを問わずに、どちらもおすすめしたいと店長の山浦弘之さんは語る。

「うちの料理に合うような食中タイプが中心ですが、冷酒だけだけでも日本酒の魅力は伝えきれないですし、その逆も。それぞれの良さがちゃんとあるんですよ。色んな間口を広げて日本酒ファンを増やしていきたいです」
 その言葉通り、最初は刺身に合わせて冷酒を楽しみ、後半の嘗め味噌や肉料理にはどっしりした燗酒を合わせるなど、知識やウンチクを知らなくても日本酒の楽しみ方を気負わず教えてくれる。
「でも、あくまでもお好きなように楽しんでいただきたい。うちの嘗め味噌だけで延々と飲んでいる方もいらっしゃいますよ」と店長が笑うように、その日の気分で肩の力を抜いて飲めるのがうれしい。
 客筋は古老の方から若者まで幅広い。さまざまな年齢層の人たちが和やかに盃を傾けている店内は居心地がよく、ちょっと一杯のつもりでも、気がつけばあっという間に根が生えてしまうのでご注意を。

<日本酒>
鷹来屋 特別純米酒 槽しぼり 900円

青リンゴのような爽やかな香りが控えめに鼻腔をくすぐる。非常に滑らかなタッチで喉越しがよく、儚く消える余韻が美しい。料理と合わせると、どんな素材とも一体化してしまうほど、自己主張が少なく奥ゆかしい酒。食中酒としてずっとだらだら飲みたくなる。
<おすすめ公演>
東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.3
デュリュフレ《レクイエム》
〜奇蹟の響きと荘厳な調べ ― 20世紀最高のレクイエム
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3014.html

「非常に滑らか」「儚く消える余韻」が特長のこのお酒に似合う作品は「デュリュフレ《レクイエム》」。オーケストラと合唱の奏でるサウンドはまさに「滑らか」で、その繊細な弱音の美しさも特筆される作品です。
 

 

 

 

 

 

 

<日本酒>
高千代 からくち純米酒 700円

穀物の香りと絹のようなシルキーな口当たり。じわじわと口に広がる旨味の余韻が長い。燗酒にすると豊かな米の甘みがキュッとタイトになる二面性が面白い。
<おすすめ公演>
東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.3
レスピーギ ―《ローマ3部作》を生んだ作曲家の知られざる素顔
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3121.html

「二面性」とくれば、《ローマ3部作》でお馴染みのレスピーギの知られざる作品を堪能できる、「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.3」がおすすめです。主に彼が残した室内楽の佳品を味わえるこの公演でレスピーギの“未知の一面”を探ってみては?

 

 

 

 

 

 

 
<日本酒>
秋鹿 純米無濾過原酒7号酵母 900円

引き締まった押しの強い酸味とやさしい米の旨味のコントラストが印象的。重心の低い味わいで、余韻はしみじみと長く続く。口に入れた瞬間から喉元を通るまで、さまざまなテクスチャーが感じられるスケール感の大きい味わい。
<おすすめ公演>
東京春祭ワーグナー・シリーズvol.7
『ニーベルングの指環』第2日《ジークフリート》
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3013.html

「スケール感の大きい」「重心が低い」「旨味」とくれば、もうこれしかありません。おすすめは、音楽祭の看板公演の一つ、ワーグナー・シリーズの《ジークフリート》です。また、「しみじみと長く続く」余韻にも、長大なこの作品に通ずるものがあると思いませんか?
 

 

 

 

 

 

 


<料理>

間違いなく酒に合うおまかせ味噌三点盛(日によって変更あり)450円は、八丁味噌の鯛みそ、南部味噌の南蛮みそ、麦味噌を使った梅味噌。
全国から仕入れている旬の有機野菜の新鮮野菜盛合せ(中)500円は紅芯大根やバターナッツなど珍しいものも多数で内容は季節によって変わる。
 

 

 

 

味噌たまりを使った甘辛い肉豆腐650円
 

 

 

 

 

 

 
 
<店舗データ>
味噌坐 玉響

東京都台東区上野2-4-4
03-5817-0055
17時〜23時半(フード22時45分LO、飲物23時LO)、
土16時〜23時半(フード22時45分LO、飲物23時LO)
日祝休

 

 

 

【プロフィール】
山内聖子(SSI認定利き酒師・呑みますライター)

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。“夜ごはんは米の酒”がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu、散歩の達人、Discover Japanなどの他、数々の週刊誌や書籍で日本酒について独自の切り口で執筆。他にも焼酎、ビール、あらゆる酒場、料理についても多数寄稿している。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス)、「NEO・日本酒論〜飲み方の新提案から妄想までいいたい放題〜」(散歩の達人)、著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。