若き芸術家の苦闘の日々は、成功のための蓄電期。ヴェルディと並ぶイタリア・オペラの大作曲家、ジャコモ・プッチーニ(1858〜1924)も例外ではない。父親を早くに亡くした彼は、母親の仕送りのもとミラノで苦学生の日々をおくり、長じては、楽譜出版社社主ジューリオ・リコルディから9年も支援を受けて、《マノン・レスコー》でようやく花開いた。30代半ばで初の成功とは、オペラ界ではなかなかの遅咲きだろう。しかし、その雌伏の時期あってこそ、彼はひときわ大きな花を咲かせたのだ。
3月に開催予定の東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.7では、この大作曲家の成長過程が、楽曲を通じて詳しく紹介される。当日は、オペラの処女作《妖精ヴィッリ》の可憐なソロ〈もし私がおまえたちのように小さな花であったなら〉から、遺作《トゥーランドット》の雄大な名アリア〈誰も寝てはならぬ〉まで、彼の旋律美の発展ぶりが、音楽院の恩師ポンキエッリや、ミラノで一年ほど同宿した後輩マスカーニの曲も交えて披露されるとのこと。19世紀末から20世紀初頭のイタリア・オペラ界の総ざらいとしても、楽しんでいただけるに違いない。
また、今回は歌曲〈太陽と愛〉や弦楽四重奏「菊の花」の実演も注目すべきもの。前者のメロディは後に《ラ・ボエーム》の喧嘩交じりの四重唱に進化し、後者のモティーフは《マノン・レスコー》の中でさらに膨らんだ。人気のオペラ歌手の熱唱とともに、こうした「知られざる名曲」にも親しんでくださったなら、プッチーニの抒情性もいっそう深く、心に響くことだろう。
文:岸 純信(オペラ研究家)
【公演情報】
東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.7
ジャコモ・プッチーニ
2021.3/21(日)15:00 上野学園 石橋メモリアルホール
●出演
ソプラノ:大村博美
テノール:西村 悟
ピアノ:山岸茂人
ヴァイオリン:山岸 努、倉冨亮太
ヴィオラ:坂口弦太郎
チェロ:藤村俊介
お話:吉田光司
●曲目
プッチーニ:
小さなワルツ
歌劇《妖精ヴィッリ》より 「もし私がおまえたちのように小さな花であったなら」
歌劇《ラ・ボエーム》より 「冷たい手を」
太陽と愛(朝の歌)
A.ポンキエッリ:歌劇《ジョコンダ》より 「空と海」
プッチーニ:
歌劇《蝶々夫人》より 「ある晴れた日に」
菊の花(弦楽四重奏)
歌劇《トスカ》より 「星は光りぬ」
歌劇《トスカ》より 「歌に生き、恋に生き」
マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より 間奏曲
プッチーニ:
歌劇《ジャンニ・スキッキ》より 「フィレンツェは花咲く木のように」
歌劇《つばめ》より 「ドレッタの美しい夢」
歌劇《西部の娘》より 「やがて来る自由の日」
歌劇《マノン・レスコー》より 間奏曲
歌劇《トゥーランドット》より 「誰も寝てはならぬ」
●チケット発売
S・A席 および U-25:3/11(木)10:00
ライブ・ストリーミング配信:3/11(木)12:00
●料金(税込)
S¥4,000 A¥2,500 U-25¥1,500
ライブ・ストリーミング配信 ¥1,500
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