49からこそ、最高の音楽を追究し、その先にある全国大会金賞をつかみ取りたかった。だが、まさか部長になるとは想像もしていないことだった。 同じく日進西中出身でファゴット担当の牟田有梨花(むたゆりか)は基礎合奏などを担当するトレーナーという役職に選ばれた。咲とは高校入学から学内にある寮でともに生活し、気心の知れた間柄だ。 有梨花は高1から55人のコンクールメンバーに選ばれ、全国大会でソロも吹いた実力者。有梨花には、咲が部長に選ばれた理由が理解できた。「中学では人前に立つタイプではなかったけど、何かをやり遂げる力はある子だった。高校に入ってからは『もっとうまくなりたい』と努力していたし、その姿勢をみんなに評価されたのかも」 部活が終わって寮に帰ってからも、ふたりはよく部活の話をした。咲にとって有梨花は頼りになる存在だった。 コンクールシーズンが始まったころ、咲は大きな挫折を味わった。 光ヶ丘女子に入学すると決めたとき、姉からは「トランペットパートでいちばんうまくなりなよ」と言われ、自分もそのつもりで努力を重ねてきた。だが、トランペットの特徴である高音を出すのが苦手で、どうしても克服できなかった。 今年、トランペットのトップ奏者に選ばれたのは後輩。咲はサードになり、人生でいちばんというく♪♪♪らい泣いた。 そんな咲に顧問の日野謙太郎先生は有名な本のタイトルを引用してこう言った。「『置かれた場所で咲きなさい』と言うだろう? メロディだけじゃなく、ハーモニーや対旋律を担当するセカンド、サードも楽しいよ」 最初は納得できなかったが、演奏していくうちに咲はサードの楽しさがわかってきた。 今年の自由曲はティエリー・ドゥルルイエル作曲《ブラック・ゴールド》。「ブラック・ゴールド」は石炭を意味しており、炭鉱のまちやその歴史を描いた音楽だ。日本の女子校に通う咲たちにとって遠い世界の話だが、咲や有梨花は炭鉱や坑夫の生活に思いを馳せ、表現を磨いた。 全国大会出場が決まった東海大会では、咲は本番中に言葉にできない熱い感情がこみ上げてくるのを感じ、トランペットを吹きながら思わず涙が流れた。その演奏は、東海大会第1位に相当する朝日新聞社賞にも輝いた。 そして、高校生活最後の全日本吹奏楽コンクールが目前に迫っている。光ヶ丘女子は後半の部11番目に出場。強豪15校の中で最高賞を目指す。「そこに到達するためには、メンバー一人ひとりが技術を磨き、気づきを増やし、自分で自分を変えていくことが必要。きっとできる!」 咲はそう信じている。 あのときの悔しさはこの日の喜びのためにあったのだと思えるように。光ヶ丘女子高校吹奏楽部は全国大会のステージで《ブラック・ゴールド》――「黒い金」を輝かせる。♪♪♪拡大版はぶらあぼONLINEで!→
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