それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのためにProfileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹 底ガイドHYPER 』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆 様の 参加をお 待ちしております!ではあるが。 とはいえ今回、ちゃんと中国の伝統文化に挑む人もいた。ティエン・ティエン『俑 Ⅲ』は、漢時代の漢服を研究した舞台衣裳を使う。といっても現代からは約3000年前の時代である。「正確な姿は絵ではほとんど残っておらず、文字資料、それも石碑などから読み解くしかないのが実情」だという。 では『俑 Ⅲ』の「漢服」はというと、特徴である広い袖は踏襲しつつ、黒地に鮮やかな赤いラインをあしらうなど、わりとあっさりカッコよく現代風にアレンジしていた。ダンスにも民族舞踊テイストは希薄で、中国のコンテンポラリー・ダンスが誇る超絶技巧もない。なんと首や手足をちょっと曲げるだけの静かなポーズの連続だけで、新しいダンスを作っていた。これが妙に心地よく、じつに斬新なアプローチだった。 また若手で注目されているユー・ジンインは剃髪で静謐と激しさを内包したダンサーだ。多くの人は日本の舞踏を思い浮かべるだろう。しかし彼らは人里離れた土地を拠点にし、舞踏のこともよく知らないという。この世代にとって、半世紀以上前に生まれた舞踏は数あるダンスのひとつに過ぎないのだろう。 オレが6年前に訪れたとき、中国のダンスは「さあコンテンポラリー・ダンスをやるぞ!」と肩に力が入っていた。しかし今回は、そういう気負いから解放されていたように見えた。「なにかの役に立つダンス」ではなく、自分が楽しいと思える(リアリティを感じられる)ダンスという、原点ともいうべき勢いを強く感じたのだった。 先月も書いたとおり、コロナ禍を経て2度目の開催となった「中国コンテンポラリー・ダンス・ビエンナーレ」に行ってきた。オレは第1回の6年前にも来ているが、ダンスへの意識、とくに若いアーティストたちの意識が大きく変わっていることを目の当たりにしておおいに驚かされた。 主会場である上海国際ダンスセンター劇場(SIDCT)が主催し、8月27日から5日間にわたって行われた。重要なのは、上海で行われるが、あくまで「中国全体」のアーティストを海外ゲストに紹介する場であるということだ。 ソン・シンシン&ワン・シューファン『You Would Park』は若い女性ダンサー2人が走り回る。そして「ピナ・バウシュの動き」と前置きして観客にやらせたり、舞台上に上げた観客に「質問の回答がイエスなら一歩進む」という「質問で動かす=振付」というジェローム・ベルのスタイルを見せた。最後は「大きな風船をいくつも観客の頭上に放って遊ぶ」という、本連載131回で書いたアレクサンダー・エクマン『PLAY』を思わせるなど、アイディアがてんこ盛りだった。これを西洋文化の無批判な受容と見ることもできるが、オレは「ヨーロッパの先達アーティストのアイディアを、アジアの若い世代が遊ぶ」という構図が非常に面白かったのである。 6年前も(実は今回のシンポジウムでも)、「中国の文化を生かした、中国ならではのダンスを世界にアピールするにはどうすべきか」と延々と議論されていた。これは韓国なども同様で、要は国を挙げてサポートしている以上、努力の過程や結果をわかりやすい形で見せる必要があるからだろう。 ちなみに国からのサポートが貧弱な日本では、同様の議論はあまり聞いた覚えがない。まあ日本は「メインストリームやマーケットの需要を無視し続けた(暗黒)舞踏のほうが、かえって世界中に広まってしまった」という皮肉な状況も大きいだろう。とはいえ「ひたすら良いものを作れば自然と道は拓ける」という楽観的な職人気質も、先行き不安を感じるもの138第133回 「『役に立つダンス』からの解放」乗越たかお
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