eぶらあぼ 2025.11月号
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逃げ出させる歌 ピアノ独奏と連弾によるエリック・サティ選集/青柳いづみこ&高橋悠治ブラームス:交響曲第3番/秋山和慶&日本センチュリー響私の歌の中に〜マーラー歌曲集/近野賢一&ヘダイェット・ジェディカーテッサリーニ:フルート作品集/大井絵理子フランス音楽、とくにドビュッシー演奏のエキスパート。一方は、現代音楽をリードし続けたサティ演奏の先駆者。この2人が奏でるサティが面白からぬはずがない。アルバム前半は独奏曲。青柳いづみこが、陰影も豊かに「3つのグノシエンヌ」を滑らかに奏でれば、ぶっきらぼうな調子で「冷たい小品」を淡々と弾く高橋悠治。こんなスタイルが異なる2人の連弾作品は最高だ。とりわけ「梨の形をした3つの小品」の端々から匂ってくる不穏な詩情がたまらない。「風変わりな美女」では、奔放な高橋を青柳がしっかりフォローしつつ、もっとやれと背中を押しているよう。(鈴木淳史)1月に急逝した秋山和慶と日本センチュリー響の昨年クリスマスのライブで、秋山最後の交響曲録音。なんと豊かなブラームスだろうか。立派で瑞々しく、歌にあふれ、雄渾。筆者が4年前に体験できた彼らのブラームスも同様で、「こんなブラームスを聴きたかった!」と心底から思わせてくれる貴重な名コンビだった。改めて録音に触れると、細かい彫琢はもちろん、ときに思い切った表現(展開部の大きいリテヌート!)など、細密なニュアンスの豊富さにも気づかされる。それを自然体でできる秋山の“匠の技”。寂しさもつのるが、せめて最後にこの録音が遺されたことを感謝したい。 (林 昌英)京都市立芸術大学大学院を修了後、フライブルク音楽大学とミュンヘン音楽演劇大学大学院で研鑽を積んだバリトンの近野賢一。彼のレパートリーの中心を占めるのはリート。これまでにシューマンの歌曲集、シューベルトの「冬の旅」をリリースし、その確かな言葉さばきとふくよかな響きの声で聴き手を魅了してきた。第3弾のCDに選ばれたのはマーラーの歌曲集。言葉と音楽が密接なことはもちろん、行間をより深く読み解くことが求められる作品群に対し、近野は誠実に向き合い、見事に昇華している。ジェディカーのオーケストラの音色を意識したのびやかで変化に富んだ音色も魅力的だ。(長井進之介)国際古楽コンクール「山梨」がイタリアのタクトゥス・レーベルと共同企画を立ち上げ、これはその第一弾。第34回の旋律楽器部門で最高位(第2位)を受賞した大井絵理子による、カルロ・テッサリーニ(1690頃~1767以降)のフルート作品集である。共演はフー・トンハンのハープシコード。まだ知名度の低い作曲家だが、ソナタはバロックから古典派への移行期に書かれた佳品揃い。明るく伸びやかな作風に、大井のトラヴェルソが見事な楽器のコントロールによって細やかな陰影を与えてゆくのが快い。小品集「貴婦人の歓び」はロマン派のサロン風小品を予感させる。未知の作品の再評価を促す秀演だ。(矢澤孝樹)青柳いづみこ 高橋悠治(以上ピアノ)秋山和慶(指揮)日本センチュリー交響楽団近野賢一(バリトン)ヘダイェット・ジェディカー(ピアノ)大井絵理子(フラウト・トラヴェルソ)フー・トンハン(ハープシコード)TACTUS/東京エムプラスTC 692006S ¥オープン価格サティ:3つのグノシエンヌ、冷たい小品、メドゥーサの罠、官僚的なソナチネ、梨の形をした3つの小品、不愉快な概要、3つの組み立てられた小品、風変わりな美女 他コジマ録音ALM-7308 ¥3300(税込)ブラームス:交響曲第3番収録:2024年12月、ザ・シンフォニーホール(ライブ)マイスター・ミュージックMM-4546 ¥3520(税込)マーラー:「若き日の歌 第1集」より〈春の朝〉、「若き日の歌 第3集」より〈夏の交代〉、さすらう若人の歌、亡き児をしのぶ歌、リュッケルトの詩による5つの歌曲、「子どもの不思議な角笛」より〈原光〉録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9071 ¥3080(税込)テッサリーニ:6つのソナタ op.14、貴婦人の歓び130CDCDCDCD

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