Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。10年間ベルリン・フィルのメディア部門に在籍した後、現在はレコード会社に勤務。連載 No.112城所孝吉127歌劇場運営の改革と音楽総監督の関係 ベルリン・ドイツ・オペラで、2026/27シーズンからの指揮者が発表された。一般にドイツの歌劇場では、音楽総監督が演奏面での責任を持ち、首席指揮者として活動するが、同劇場では、マキシム・パスカル、ミケーレ・スポッティ、ティトゥス・エンゲルの3人を首席客演指揮者(パスカル、スポッティ)およびコンダクター・イン・レジデンス(エンゲル)として迎える。以上は、同時に新インテンダントに就任するアヴィエル・カーンが、9月下旬の記者会見で発表した。 その際パスカルとスポッティは、シーズン中2回の新プロダクションと1回のオーケストラ演奏会、エンゲルは、1回の新作初演と1回のオーケストラ演奏会および実験的小劇場プロダクションを担当する。カーンはこの決定を下す際に、ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団と入念な議論を行ったという。 「このチーム形式の解決は、芸術的な多様性を可能とすると同時に、将来の候補者へのドアを開くことになるでしょう」 カーンのコメントから読み取れるのは、オーケストラがひとりの候補者に同意できなかった、ということである。3人は、これまでベルリン・ドイツ・オペラで目立った実績がない。オーケストラは、未知の指揮者を音楽総監督に迎えることに難色を示したのだと思われる。おそらく他にも、様々な候補者の名前が挙がっただろう。また「将来の音楽総監督は、彼ら以外になるかもしれない」という可能性も残している。 なぜこの話をするのかというと、以上がオペラハウス運営の複雑な実情を物語っているからである。同劇場は、ここ数年間で国際的なオペラ・シーンにおける格を落とした観がある。原因は、コロナ後の客離れや新プロダクションの継続的失敗、音楽的質の低下(とりわけオーケストラ)。その状況で、有名指揮者が進んで音楽総監督になりたいと思う劇場ではなくなってきていると言える。一方、状況を変えるためには、まさに芸術的な成功が不可欠である。巻き返しを図るには充実が求められるのに、それに必要なトップ指揮者が寄り付かないというジレンマがあるのだ。 もっともこのケースにおいては、3人体制は良策かもしれない。なぜなら、首席客演指揮者は外部の人間であり、劇場全体の運営や芸術的決断に決定権を持たないからである。新インテンダントにしてみれば、強い権限を有した音楽総監督が数年空席ならば、自分の方向性を先に打ち出すことができる。これは、願ってもない好条件だろう。ベルリン・ドイツ・オペラの場合、国際的に勝ち残るためには、抜本的立て直しが必要だが、カーンが良いアイディアを持ち、それを実現することができれば、将来の見通しは悪くないように思われる。もちろん重要なのは、彼が本当に良いアイディアを持っているかだが。
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