eぶらあぼ 2024.09月号
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44Interview村上淳一郎(ヴィオラ)神秘的な“間(あいだ)”の世界 ――ヴィオラ・サウンドに包まれる新シリーズ取材・文:林 昌英 日本のオーケストラのヴィオラ・セクションが熱い。各オーケストラに名物・人気奏者が在籍し、表現の水準は高い。ことに特別な存在感を放っているのが、2021年からNHK交響楽団の首席奏者を務める村上淳一郎。2009年から21年までドイツ屈指の楽団、ケルン放送交響楽団でソロヴィオリストを務めた達人で、卓越した力量と日本人離れしたパフォーマンスでN響新時代を象徴する存在のひとりである。 桐朋学園大学を卒業した村上は、イタリアで7年ほど、ドイツで12年を過ごした。対照的な二国の経験は大きかったと振り返る。 「オペラの国イタリアはメロディが神様。他のパートはメロディが歌いやすいように弾くことを目指します。ドイツはメロディに完全に沿うというよりは、中音域、低音パート等、各自の特性を明確にしながらも一緒にやるという感覚で、音楽が立体的になります」 ドイツに居続けるつもりだったが、21年にN響首席に就任して日本に帰国。 「欧州では人種が混ざり、背景が違う人たちが集い、弾き方も表現方法も様々で、そのごった煮具合がヨーロッパ文化の魅力だと思います。対して日本文化は、無駄をなるべく削ぎ落として真髄に至るという、正反対とも取れる精神性があります。お寿司や俳句もそうですね。僕はその精神性を深く愛していますが、ヨーロッパの音楽をするときには、彼らの様に『個が粒立った集団』であることは大事だと考えます」 ヴィオラという楽器の魅力について、村上は「間(あいだ)の世界」と表現する。 「夜が明けるときの夜でも朝でもないような“間(あいだ)の世界”が好きです。間とか際(きわ)の独特の魅力は、ヴィオラの音の特徴とも直結するものです。多くの作曲家も人生の終わりという“際”が近づくとヴィオラ作品を書いています」 その思いを形にするべく新しい仲間たちと開始するのが、秋にHakuju Hallで開催される「ヴィオラ・コレクション」である。 「1回目は“純度100%”、ヴィオラ4人のみです。楽器の個体差が大きく多様で、四重奏は想像以上の多彩さ、迫力があると思います。ヴァイオリンやチェロの生命力にあふれた音とも違う、ヴィオラの神秘的で中性的な響きが、聴く人の細胞にしみわたるようなサウンドを作りたい」 出演はヴィオラファンにとっては垂涎のメンバー。すでに第一線で活躍する人気奏者の安達真理、中恵菜に、レグルス・クァルテット等で注目を浴びる期待の俊英・山本周とそろい、「すばらしい演奏家ばかりです」と村上も自信を示す。 プログラムにも村上のこだわりが表れている。「編曲が本当にすばらしい」ヴィオラ・コレクション 11/21(木)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://hakujuhall.jpという野平一郎編のJ.S.バッハ「シャコンヌ」。ブリッジの名品「2つのヴィオラのためのラメント」。「ヴィオラの音と民謡がとても合う」バルトークの「44の二重奏曲」。モーツァルト《魔笛》や、林そよか編曲の「映画音楽集」では、ヴィオラ四重奏のエンターテインメント性を存分に楽しめるはず。 村上は「欧州では音楽家が美術・文学・歴史や哲学など文化全般をとてもよく把握していて、ときにその根拠の上に『だからここはUp bowで弾く』と具体的な奏法のアイディアにまで繋がったりします。そういうことにいつも感心していました」という。本シリーズではゆくゆくは楽器やプログラムの幅を広げて、文化全般への理解にもつながる企画を見据えているとのこと。まずは11月、最高のヴィオラの響きに包まれて、間(あいだ)の世界の魅力を満喫したい。

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