eぶらあぼ 2024.09月号
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23取材・文:室田尚子 写真:ヒダキトモコ 全国の劇場・音楽堂・芸術団体が協力し、単独では難しい独創的でレベルの高いプロダクションを創造するという目的で2009年度にスタートした「全国共同制作オペラ」。2024年度は東京芸術劇場・名取市文化会館・ロームシアター京都・兵庫県立芸術文化センター・熊本県立劇場・金沢歌劇座・ミューザ川崎シンフォニーホールの全7館が参加し、プッチーニの傑作《ラ・ボエーム》を新制作で上演する。指揮は、今年いっぱいでの引退を表明している井上道義。演出は、19年の全国共同制作オペラ《ドン・ジョヴァンニ》で井上とタッグを組んだダンサーの森山開次。森山にとっては、「オペラ」という世界の扉を開いてくれた井上の最後の花道を飾る役を引き受けることになる。森山「実は僕は、歌い手に憧れて音楽座ミュージカルに入ったんです。もともと内向的で“生まれ変わったら植物になりたい”っていうような少年だったんですけれど、だからこそ声を出して表現する歌い手に憧れていた。井上さんによってオペラに関わることになったのは、ある意味で自分自身の原点回帰のような思いを抱いています」 そんな森山を井上は「人の心をオープンにさせるという、演出家にとってとても重要な能力のある方」と称賛する。井上「《ラ・ボエーム》には宗教も政治も社会問題も登場しない、ただ人間としての純粋な感情だけでできている、とても人間らしい作品です。僕は2004年に大阪国際フェスティバルでこの作品の演出を手がけていて、今回それを誰に超えさせようか、と考えた時に思い浮かんだのが森山くんでした。《ドン・ジョヴァンニ》の時は初めてのオペラ演出で、もちろんできないことも多かったけれど、そういう時に自分を冷静に客観視して、課題を見つけて解決していく。その能力がすごかったので、今回、こうしたイタリア・オペラの傑作を任せることにもまったく躊躇はありません」 《ドン・ジョヴァンニ》ではダンサーを起用し、舞台に積極的に踊りを取り入れた演出で話題となった森山。今回は、演出・振付の他に美術や衣裳も手がける。ロドルフォがミミの手をとる印象的なメインビジュアルも、森山によるものだ。森山「《ラ・ボエーム》のストーリーをつぶさにみていったとき、ミミの“手”が非常に印象的だったのでこれにこだわっていきたいと考え、あのようなメインビジュアルが生まれました。ダンスについては、前回のようなやり方で取り入れることは難しいと思いますが、音にも絵画にも様々なものとリンクすることができるダンサーの身体というものを、芸術家たちが住む屋根裏部屋に芸術の息吹として存在させる、というような方向性を考えています。また、歌手の方たちの身体表現ということも丁寧に見せていくつもりです。どんな舞台になるのかは、ぜひみなさんの目で確かめてください」 開催地によって舞台の大きさや音響も異なるホールでひとつの作品を上演する全国共同制作オペラ。指揮者にかかる負荷は大きいのではないだろうか。井上「ホールによってオーケストラ・ピットがないところもある。その場合はオーケストラを舞台の手前に配置したりもするが、特に、言葉そのものを楽しむためのレチタティーヴォを聴かせるにはコントロールが非常に難しい。今回の《ラ・ボエーム》にはレチタティーヴォがないので、そこは利点ですね。ただ、それぞれの会場でオーケストラが替わるから、響きのコントロールは現場でその都度つくっていくしかない。またソリストも一人ひとり個性がありますから、そのセンスと能力にどう合わせていくか、ということも僕の大切な仕事です」 最後のオペラを森山開次と手がけることについて、井上は「Very Happy」と答えてくれ、森山は「芸術のバトンを渡されるという思い」と語った。世代を超えたふたりの天才が生み出す《ラ・ボエーム》への期待は高まるばかりだ。「芸術のバトンを渡す」――世代を超えたふたりの天才が生み出す《ラ・ボエーム》

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