SACDCDCDSACD126目下世界を股にかけ、日本でも東京交響楽団との共演でめざましい活躍を続けるノット。ブルックナーの交響曲の録音企画は、彼が同楽団の音楽監督に就任して2年後の2016年より満を持して始まり、丁寧に続けられてきたものである。8番、5番、9番、4番に続き、作曲家のメモリアルイヤーの今年リリースされたのは第1番。とりわけリンツ稿(ノヴァーク版)の採択により初期交響曲の世界が幕をあけ、ノットが描くブルックナー像も次第に明らかになってきた。洞察力に富み、精緻な構築性を特徴とした演奏ながら、ライブらしい熱気も感じさせる。全集完成が楽しみになる一枚。(大津 聡)ウェールズ弦楽四重奏団のベートーヴェン全集第7弾。第11番「セリオーソ」スケルツォ主題提示のアゴーギク(テンポ変化)は独特で個性的だ。緩徐楽章のフガートでも声部の絡みをじっくりと聴かせる。終楽章は軽やかに疾走するコーダまで爽快に進む。第7番冒頭の両主題だけでなく、推移楽句などの多種多様な楽想を、実に美しく彫琢する。第2楽章では細かい動機とリズムの戯れが精緻に刻まれ、聴いていて楽しくなる。第3楽章は悲哀を湛えた旋律がとてもきれい。チェロも雄弁だ。フィナーレはロシア主題のダイナミックな躍動が生の喜びを謳歌しているかのよう。聴き応えがあるベートーヴェンだ。(横原千史)11月に初来日予定の当団体が現在最注目のア・カペラ声楽グループのひとつであることは疑いない。演奏の精度と精妙な表現力に加え、アルバム・コンセプトが毎回卓抜なのだ。本盤は聖母マリアとルネサンス期の“女王”(アンヌ・ド・ブルターニュやアン・ブーリンら)をめぐるジョスカン、ブリュメルらの声楽曲を巧緻により合わせ、困難な運命を生きた女性たちへの追憶と評すべき一枚だ。詳細な解説と共に聴くと、同傾向の詞に付曲した各作曲家の創意が伝わる。そしてパークとクラットウェル=リードの現代作品が、強い痛みの響きを差し込み、テーマが現代にも通じることを示唆する。(矢澤孝樹)毎年リリースされる藤倉大の作品集、第10弾は2枚組約150分! しかも全10曲のどれもが面白い。各曲に共通するキーワードは“遊び心”と“エモーション”ではないか。リラックスした状態で浮かぶアイディアに適切な形を与え、奏者と対話をしながら楽器のイメージを探っていく。三味線、尺八、チューバ、箏のような楽器も、藤倉というフィルタを通すと新たな魅力を帯びて輝きはじめ、独奏曲はしばしば協奏曲にまで膨らみ、その過程で新たな化学反応が起こる。ミキシングやマスタリングまで自ら行い、曲の胚胎から聴取まで、プロセスの全てを楽しみつつ取り組んでいるのが伝わってくるアルバムだ。(江藤光紀)ブルックナー:交響曲第1番ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」、同第7番「ラズモフスキー第1番」ウェールズ弦楽四重奏団【﨑谷直人 三原久遠(以上ヴァイオリン) 横溝耕一(ヴィオラ) 富岡廉太郎(チェロ)】アントワーヌ・ブリュメル:あなたの保護に向かって/ジョスカン・デ・プレ:この世の道理を超えて/ロワゼ・コンペール:退屈し/オワイン・パーク:マリアのための祈り/アントニウス・ディヴィティス:この娘は美しい/ニンフェア・クラットウェル=リード:もう喜びはなく 他ジェズアルド・シックスオワイン・パーク(指揮、バス) 他Hyperion/東京エムプラスJCDA 68453 ¥3500(税込)藤倉大:ウェイヴァリング・ワールド、三味線協奏曲(オーケストラ・ヴァージョン)、尺八協奏曲(アンサンブル・ヴァージョン)、チューバ協奏曲(アンサンブル・ヴァージョン)、ゆりいろ(箏協奏曲第2番) 他本條秀慈郎(三味線、声) 小濱明人(尺八) 橋本晋哉(チューバ) 木村麻耶(二十五絃箏、声) 他収録:2023年10月、東京オペラシティ コンサートホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00848 ¥3850(税込)フォンテックFOCD9905 ¥3080(税込)ソニーミュージックSICX 10022〜3(2枚組) ¥4950(税込)ブルックナー:交響曲第1番/ジョナサン・ノット&東響ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番&第7番/ウェールズ弦楽四重奏団心の女王/ジェズアルド・シックスウェイヴァリング・ワールド/藤倉大
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