eぶらあぼ 2024.09月号
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CDCDSACDCD122CDでも恒例となったシリーズの本年版。2度目の登場のネルソンスが、「スメタナ生誕200年」「ロマン派の名作」(実質的にはオペラの楽曲と20世紀ロシアの舞曲)をテーマに、快調な演奏を繰り広げている。ウィーン・フィルの温かみと潤いのある音はもとより、多く含まれた舞曲のリズムが胸を弾ませてくれること間違いなし。ワーグナーの影響を受けた女性作曲家オルメスの「夜と愛」も、レアな作品ながら美しく耳を慰撫する。さらに特筆されるのがノルウェーのソプラノ、ダヴィドセン。その強靭かつまろやかな声と雄弁な歌い回しは大いなる聴きものだ。(柴田克彦)マリンバのトレモロには木のぬくもりがある。それが合奏体になると無数の音の粒が混ざり合い、しっとりとした重みをもつ当たりの柔らかいハーモニーへと発展する。その響きは優しさや癒しを含み、聴き進めるごとに「愛」や「祈り」というアルバムのテーマと共鳴して聴き手の懐に入っていく。讃歌やミサ曲、歌曲などに管弦楽曲からの編曲ものを配しバランスよく構成、曲目・演奏共に規範的なものと言えよう。アルバム中ほどに収録された「モルダウ」では水面の反射を表現するグロッケンや、激しい流れをダイナミックに活写するティンパニやシンバルが打楽器オーケストラの可能性を感じさせる。 (江藤光紀)ベートーヴェンとブラームスのチクルスでのフレッシュな演奏が評判を呼んだコンビによるシューベルト。さくさくと軽やかな足取りで進む「未完成」。とりわけ第2楽章の淀みない流れの心地よさ。テンポは世界最速レベルだが、せっついた感じは一切ないのが凄い。その快速運転は、「グレイト」交響曲も同様で、冒頭楽章コーダもテンポを落とさずに駆け抜ける。リズム音形を律儀に浮き出すのみならず、強弱やバランスの細やかな操作により、颯爽とした叙情美が際立つ。まさにフィリップ・グラスや久石自身によるミニマル作品へと直接繋がっていくようなシューベルト像を打ち立てた。(鈴木淳史)日本人初のフランソワ・クープランのクラヴサン曲全集録音を進めている中野振一郎。2020年7月から録音を開始、2枚組の各巻を確かな歩みでリリースしており、完結もいよいよ視野に入ってきた。今回はクラヴサン曲集第2~4巻から5つのオルドル(組曲)が選ばれ、作風の変遷が楽しめる。いつもながら標題の暗示する情景と、各曲の様式を描出するバランスが絶妙。最初の4つがイ調とニ調でまとめられ、最後の第26オルドルで嬰ヘ調が現れるという、その響きの鮮やかな変化も愉しみたい。第2クラヴサンを要する曲では築山茉以が師と息の合った対話。関根敏子の解説も聴き手を心強くサポートしてくれる。(矢澤孝樹)収録:2023年7月、東京オペラシティ コンサートホール&長野市芸術館(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00850 ¥3850(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9062,63(2枚組) ¥3300(税込)ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》より〈ワルキューレの騎行〉/スメタナ:歌劇《売られた花嫁》より〈道化のダンス〉/オルメス:間奏曲「夜と愛」/ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」より〈剣の舞〉 他アンドリス・ネルソンス(指揮)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団リーゼ・ダヴィドセン(ソプラノ)収録:2024年6月、ウィーン(ライブ)ソニーミュージックSICC 2354 ¥2860(税込)チャイコフスキー:弦楽のためのセレナーデより第1楽章/モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス/シベリウス:フィンランディア讃歌/スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より〈モルダウ〉/メンデルスゾーン:「6つの歌」より〈森への別れ〉(以上奥定美和編) 他上野信一(指揮)フォニックス・レフレクションコジマ録音ALCD-7303 ¥3300(税込)シューベルト:交響曲第7番「未完成」、同第8番「ザ・グレイト」、劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」より間奏曲第3番久石譲(指揮)フューチャー・オーケストラ・クラシックスフランソワ・クープラン:クラヴサン曲集第2巻 第9オルドル イ調,第10オルドル ニ調、同第3巻 第15オルドル イ調、同第4巻 第24オルドル イ調,第26オルドル 嬰ヘ調中野振一郎 築山茉以(以上チェンバロ)ウィーン・フィル・シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2024/アンドリス・ネルソンス&ウィーン・フィルフォニックス・マリンバオーケストラ IV―愛と祈り/上野信一&フォニックス・レフレクションシューベルト:交響曲第7番「未完成」 第8番「ザ・グレイト」/久石譲&フューチャー・オーケストラ・クラシックスフランソワ・クープラン:クラヴサン曲全集 5/中野振一郎

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