eぶらあぼ 2024.6月号
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それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために124Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆様の参加をお待ちしております!乗越たかお第116回 「天児牛大逝く。『卵を立てる』ことで身体が変わる!?」 山海塾主宰の天児牛大(あまがつうしお)氏が亡 そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、皆さんもくなった。日本の舞踏を世界のBUTOにした第一人盆踊り程度の簡単な動きでもうまく踊れなかった経者で、とにかく海外での人気はすごかった。パリ市験はないだろうか。頭ではわかっていても身体が動立劇場で継続的に新作を発表し、オペラの演出なかない。歩いたり階段の昇り降りのような、日常生活でパターン化された動き以外を求められると、意ど幅広く活躍。パリのアートの殿堂ポンピドゥーセンターの書籍コーナーの一角が、山海塾の写真集外にできないものなのである。この壁を破るのは容で埋まっていたのを見たことがある。易ではない。 舞踏はもともと暗黒舞踏と称していて、闇・混沌・ そこで役立ったのが、卵なのだという。異形といったグロテスクさも含んだダンスだった まず稽古場の反対側まで歩いて行かせ「壁の前で卵を立てて、ゆっくりと帰ってこい」と指示を出しが、山海塾は秘儀のように透徹した美意識で独自のスタイルを生み出したのである。た。すると参加者は、せっかく苦労して立てた卵を オレはそんなに交流があったわけではないが、倒したくないので、腰を落として卵を見つめたまま山口小夜子さんに紹介されて何度か食事をした。彼ゆっくりと後ろ向きで帰ってくる。すると、自然に「すり足」になっていたという。女は世界的なモデルだが、山海塾の舞台に出てパフォーミングアーティストとしても活躍していたのだ。 まぁこの話も本当かどうかはわからないが、ワー オレがいちばん記憶に残っているのが有名な「卵クショップの本質を考えるとき、非常に示唆に富んを立てるワークショップ」の話だ。山海塾には『卵をだエピソードだといえる。立てることから ―卵熱』と作品があるほどで、これ 「外からステップや形を教えてマネさせる」のではなく「参加者が自ら考え、その身体から自然に動は同カンパニーを代表するキーワードだった。 オレは彼がワークショップで卵を立てさせる海外きが導き出されている」。しかもそれが最終的にこの映像を見た覚えがあった。コロンブスの卵ではなちらがやらせたかった動きに収斂しているのだ。実いが、人には「卵は立てられない」という思い込みに優れた、理想的なワークショップの在り方ではないか。がある。しかしよくよく見ると卵の殻には小さな突起がポツポツとあるので、3点の突起の間に卵の重 その後も色々なことを話した。なかでも天児の言心を入れれば、どんな卵も立つ理屈だ。映像の中葉で一番覚えているのは「オレは一度も赤字公演をで天児は「これは、先入観を捨てることで自分の隠したことがない!」である。それはホントにすげえ。ご冥福をお祈りいたします。された可能性を実感させるワークショップなのである」みたいなことを話していて、うまいことを言うなぁと感心したのだった。 と伝えると天児は「まあ今はそう言ってるんだけど……」と話し出した。 もともとは外国人相手のワークショップで「すり足」を教えようとしたのだという。しかし靴文化で育ったヨーロッパ人は、何度説明しても、ビックリするくらいできない。

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