eぶらあぼ 2024.6月号
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SACDCDCDCDショスタコーヴィチ:交響曲第10番/井上道義&N響モーツァルト&R.シュトラウス:歌曲集/サビーヌ・ドゥヴィエル作曲家との思い出―山根弥生子 同時代の日本人作品を弾く宅孝二:ソナチネ/諸井誠:以呂波譬喩八題/清瀬保二:四つの前奏曲より抜粋/甲斐直彦:首里城での舞踏会/松平頼則:ピアノと管弦楽のための主題と変奏/牧野由多可:ピアノとオーケストラのための協奏曲第2番/宍戸睦郎:ピアノとオーケストラのための協奏曲第2番 他山根弥生子(ピアノ)収録:1966年10月、ベルリン(ライブ) 他コジマ録音ALCD-9258,9259(2枚組) ¥4070(税込)引退宣言後の井上道義のショスタコーヴィチは、ますます鬼気迫る。といっても刺々しさはなく、むしろすべてのフレーズが豊かに息づき、歌にあふれる。ショスタコーヴィチの音楽は決して無機質、攻撃的ではない。人間性を取り戻すことで本質が明らかになる。そんな信念がN響との第10番のライブ録音からも受け取れる。冒頭の低弦からなんという歌心。真に一音ごとに温もりが感じられ、どんなに大音響の場面でもそれは失われない。浮かび上がるのは、人間ショスタコーヴィチの抱えた緊張と煩悶、そして隠し切れぬ狂気。未踏の境地にある井上、その卓越した解釈の記録。(林 昌英)グリーグ国際ピアノコンクールをはじめ8つの国際コンクールで優勝し、内外で活躍している俊英のデビュー・アルバム。まずは、「変奏曲」をメインテーマにした筋の通った構成と、シューマンの「謝肉祭」を軸に据えた意欲的な選曲が光っている。演奏はどれも生気とニュアンスに富んでいるし、テーマである「変化、変遷」が巧みに表現されている点、さらには強靭さと優しさや温かさを兼ね備えている点に非凡さが窺える。優勝コンクールゆかりのグリーグ2曲は当然力の入った好演。大曲「謝肉祭」や多彩なチャイコフスキーの「主題と変奏」も聴き応え十分だ。  (柴田克彦)R.シュトラウスがモーツァルトの音楽に若い頃から格別の関心を寄せていたことは広く知られている。当該盤は両者の歌曲をそれぞれグループ化してカップリングした一般的な歌曲集ではなく、異なる時代の作曲家の音楽を巧みに組み合わせて独自に構成したアルバムとなっている。通して聴くと全く違和感がないことに加え、両者を組み合わせることによって新たな意味内容を創出した、高度なコンセプト・アルバムとなっていることに驚かされる。高い透明感を持って歌い上げるドゥヴィエルに加え、ポルドワのピアノが非常に印象的。歌唱に「寄り添う」伴奏ながら、常に音楽に明晰さを与えている。(大津 聡)山根は音楽評論家であった父・銀二を通じ、また1950年代のパリ留学時代にも多くの作曲家と知り合い、彼らの作品を愛奏してきた。本アルバムはそれらの新録音と、60〜70年代に旧東独で演奏された3曲の協奏曲のライブ録音からなる。フランス風の和声に日本風味をほんのりと交えた宅孝二の明るく清々しい「ソナチネ」に始まり、各曲に表れた作曲家たちの創意、特に日本的なものをピアノ小品に落とし込むアイディアが楽しい。山根はブックレットで各人の人柄を鮮やかに活写しているが、同時代を生きた仲間だからこその共感や喜びが滲み出た演奏は、時間を超えた会話のようですらある。(江藤光紀)114ショスタコーヴィチ:交響曲第10番井上道義(指揮)NHK交響楽団ラフマニノフ:幻想的小品集より前奏曲「鐘」、「パガニーニの主題による狂詩曲」より第18変奏曲(江口玲編)/チャイコフスキー:6つの小品より「主題と変奏」/グリーグ:抒情小曲集より「夜想曲」「トロルハウゲンの婚礼の日」/シューマン:謝肉祭 他髙木竜馬(ピアノ)モーツァルト:おいで いとしのツィターよ、子供の遊び、孤独に寄す、すみれ、クローエに、夢に見る姿、夕べの想い/R.シュトラウス:夜、なにも、森のしあわせ、明日!、アモール、芥子の花、木づた、万霊節 他サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)マチュー・ポルドワ(ピアノ)ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)ERATO/ワーナーミュージック・ジャパン5419.794886 ¥オープン価格収録:2022年11月、NHKホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00839 ¥3850(税込)イープラスミュージックem-0036 ¥3000(税込)Metamorphose/髙木竜馬

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