eぶらあぼ 2024.3月号
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Nの二乗(自然・数)〜金子仁美:管弦楽作品集/パスカル・ロフェ&N響CDSACDCDCD120シューベルト 即興曲集/シプリアン・カツァリスチャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」/ジョナサン・ノット&東響ヨハネス・ブラームス&クララ・シューマン:ピアノ・トリオ/中村太地&辻本玲&佐藤卓史ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番(改訂版)/クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲中村太地(ヴァイオリン)辻本玲(チェロ)佐藤卓史(ピアノ)カツァリスは昨年の来日リサイタルでシューベルトの「即興曲」を抜粋で弾いたが、新譜ではop.90、op.142を全曲収録。使用楽器はベヒシュタイン D-282。op.90第2曲の澱みなく上品に突き進むドライヴ感は心地よく、第4曲では左手が担当する内声部に、意外な発見をもたらしてくれる。op.142の第1曲は深く柔らかな音色が麗しい。変奏曲形式の第3曲の主題は素朴だが、カツァリスの愛らしさに溢れた演奏に心を掴まれ、やはり内声の強調がおもしろい。めくるめく変奏は決して攻撃的な表現をせずに安定感のあるテンポの中で多彩な表情を聴かせる。  (飯田有抄)まず、青澤隆明氏執筆の大部に及ぶ解説が圧巻だ。これぞフィジカルCDの醍醐味。今や黄金コンビのノットと東響、チャイコフスキー交響曲初録音は意表をついて第3番。6曲の中では人気が低いが、こんなに魅力的な曲だったとは。他の5曲とは異なる、「終楽章クライマックス」ではない5楽章構成の、細部の美が輝く。各声部がよく対話する。両翼配置も効果的で、多く含まれる対位法的局面が生きる。豊かに充実した瞬間瞬間の積み重ねが自然にドラマを高揚させてゆく。ノットはこの曲をマーラーの7番と比較しているが、「19世紀の新古典主義的大交響曲」としての再評価を促す演奏だ。(矢澤孝樹)孤高のヴァイオリニスト約5年ぶりの新作は、盟友である佐藤卓史(ピアノ)に初顔合わせの凄腕チェリスト辻本玲を加えた2019年結成のトリオ編成によるウィーンでの録音盤。21年に青山音楽財団よりバロックザール賞の栄誉を受けたツアーのプログラムから、ブラームスが過去作に手を加えて完成させた屈指のピアノ三重奏曲第1番 ロ長調と、クララの最高傑作で後に夫の作品にも影響を与えたというピアノ三重奏曲 ト短調のカップリング。それぞれのフィールドで活躍する彼らが信条とする「ひととき集まって音楽を創󠄃るスリリングな良さ」に溢れた1枚だ。(東端哲也)量子論や宇宙論の近年の発展や、想像を超えた地震の被害を目の当たりにすると、世界は私たちが五感で捉えているよりもずっと複雑で謎めいていると気づかされる。金子仁美というプリズムは、その不思議を鮮やかに音へと変換する。感覚を超えた何かを捉え、それを感覚へと取り戻すこと。「Nの二乗(自然・数)」では彼方の銀河のかすかな明滅までが描かれ、「レクイエム」では調和と破壊という相反が出現する。「分子の饗宴」では食の快楽を味蕾の化学反応へと分解し、「地球・生命」では邦楽器の生理を通じて水の分子構造を明らかにする。その音楽は、どれもとてもユニークな姿をしている。(江藤光紀)シューベルト:4つの即興曲 D.899(op.90)、同D.935(op.142)シプリアン・カツァリス(ピアノ)PIANO21/東京エムプラスXP21 059-N ¥3300(税込)チャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団金子仁美:Nの二乗(自然・数)、レクイエム、分子の饗宴、地球・生命 3Dモデルによる音楽VIIパスカル・ロフェ 沼尻竜典 板倉康明(以上指揮) 野平一郎(ピアノ) NHK交響楽団 東京都交響楽団 現代邦楽“考”収録:2007年7月、すみだトリフォニーホール 他(ライブ)カメラータ・トウキョウCMCD-28386 ¥3080(税込)収録:2023年7月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00835 ¥3850(税込)ビクターエンタテインメントVICC-60958 ¥3400(税込)

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