eぶらあぼ 2024.3月号
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CDCDSACDCD114ニューイヤー・コンサート2024/クリスティアン・ティーレマン&ウィーン・フィルユーカリ〜ヴァイオリンとヴィオラの二重奏〜/川田知子&須田祥子カンチェリ:タンゴの代わりに、ステュクス、SIO/飯森範親&日本センチュリー響リヒャルト・シュトラウス:4つの最後の歌/アスミク・グリゴリアン毎年名だたる指揮者が舞台に上がってきた、恒例のニューイヤー・コンサート。2024年はティーレマンが再登場。今年9月からバレンボイムの後任としてベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任する、まさに現代を代表する指揮者の一人である。オペラでの豊富な経験を有するティーレマンらしく、各曲のキャラクターが際立っている。指揮者と並んで近年注目されるのは同演奏会初登場の作品であるが、今年も9曲が含まれている。中でも注目は、生誕200年の記念年を迎えるブルックナー。私たちが交響曲で知る精神性の高いブルックナーとは異なるチャーミングな音楽が聴けるのが大変興味深い。(大津 聡)川田知子と須田祥子。名手二人の二重奏アルバムは、これが『スターライト』に続く2作目。今作では前半に、ワイル「ユーカリ」に始まる20世紀のタンゴ系名曲が並ぶ。荒井英治の編曲は、2人のクラシカルな技巧を存分に生かしつつ原曲のテイストも失わない絶妙なバランスだ。後半のロッラやモーツァルトに自然につながってゆくのは、中央に置かれたマルティヌーのスパイス効果もある。が、それ以上に、各々の美麗な音色を高い同質性で調和させてゆく2人のアンサンブルが、時代も文脈も異なる作品を共通の色合いで包んでゆくからだろう。どこか「ユーカリ」で歌われる夢の国のような。(矢澤孝樹)飯森範親は現代音楽に独特の嗅覚をもつ。カンチェリの1990年代後半の3曲を収録。ジョージア出身のこの作曲家の響きには独自の感覚がある。彼の「音色の出現の前の沈黙」という言葉はそのキーワードともいえる。「ステュクス」は生者と死者を分ける三途の川のことで、ヴィオラ独奏は渡し守のカロンと重なる。静寂の中に浮かび上がる丸山奏の独奏の歌が美しい。合唱が死者の声を歌っているのに、ブックレットに対訳がないのは残念。それでも死への想いは伝わってくる。「SIO」でも静寂と凶暴なトゥッティが強烈に対比される。「タンゴの代わりに」はピアソラへのやや皮肉なオマージュ。(横原千史)ドラマティックなソプラノ歌手グリゴリアンが、R.シュトラウス最晩年の作「4つの最後の歌」を2つのバージョンで歌い分ける。オーケストラ版は、ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルとの共演で、一つひとつが、オペラのクライマックスのよう。魔術的なオーケストレーションがもたらす色彩豊かな響き。グリゴリアンの声も独奏楽器のようにオーケストラに溶け込んで、鮮やかな情景を描く。一方、ピアノ版はヒンターホイザーとの共演。こちらは言葉が前面に出てきて、行間のなかに潜む情感をじっくりと掘り起こす。より内面的。心のなかに情景を映し出すかのよう。(鈴木淳史)R.シュトラウス:4つの最後の歌(管弦楽伴奏版、ピアノ伴奏版・M.ヴォルフ&J.グリッベン編)アスミク・グリゴリアン(ソプラノ)ミッコ・フランク(指揮) フランス放送フィルハーモニー管弦楽団マルクス・ヒンターホイザー(ピアノ)マイスター・ミュージックMM-4526 ¥3520(税込)カレル・コムザーク2世:アルブレヒト大公行進曲/ヨハン・シュトラウス2世:ポルカ・フランセーズ「フィガロ・ポルカ」/ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世:ワルツ「全世界のために」/ブルックナー(W.デルナー編):カドリーユ WAB121/ロンビ:ギャロップ「あけましておめでとう!」 他クリスティアン・ティーレマン(指揮)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団収録:2024年1月、ウィーン(ライブ)ソニーミュージックSICC-2352〜3(2枚組) ¥3190(税込)ワイル(荒井英治編):ユーカリ〜タンゴ・ハバネラ〜/ビジョルド(荒井編):エル・チョクロ/マルティヌー:3つのマドリガル/ロッラ:3つの二重奏曲第3番/モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 K.424 他川田知子(ヴァイオリン)須田祥子(ヴィオラ)カンチェリ:タンゴの代わりに(オーケストラ版)、ステュクス〜ヴィオラ 混声合唱と管弦楽のための、SIO〜弦楽オーケストラ ピアノとパーカッションのための飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団丸山奏(ヴィオラ) 京都バッハ合唱団高橋優介(ピアノ)収録:2017年9月&23年9月、ザ・シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00832 ¥3850(税込)Alpha/ナクソス・ジャパンNYCX-10451 ¥3520(税込)

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