Interview米良美一 & 村松稔之(以上カウンターテナー)自身のアイデンティティと結びつけて描く「美」の世界Hakuju Hall 20周年記念 カウンターテナーの饗宴10/19(木)19:00 Hakuju Hall(完売)問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://hakujuhall.jp56 今年10月に開館20周年を迎えるHakuju Hallで、「カウンターテナーの饗宴」と題するコンサートが開催される。米良美一、藤木大地、村松稔之という当代きっての人気カウンターテナー3人が一堂に会して歌声を聴かせる贅沢な企画だ。今回、米良と村松にコンサートにかける意気込みを聞いた。 プログラムは、村松がバロック・オペラを中心にしたアリア、藤木が武満徹などの邦人作品、そして米良が「もののけ姫」と「ヨイトマケの唄」というチョイスになっているが、3人で相談したわけではないという。 「カウンターテナーらしい曲をわざと選んだ」という村松は、「米良さん、藤木さんという大先輩に先んじて自分が一番カウンターテナーらしい曲を歌うという怖さはありますが、そこから何かをつかむことができたらいいと思い、挑戦の気持ちで臨みます」と語る。一方の米良は「歳を取ってきたので他の人に任せられるところは任せたいという気持ち。その上で自分の一番いいところ、できることでお客様に満足していただけるものをご用意しようと考えました」とあくまでも自然体だ。 そんなふたりからは、「カウンターテナー」という声種が自らのアイデンティティと深く結びついている、という話も聞くことができた。 「学生時代は“ホルモン声”などと言われたりもしましたが、私にとっていちばん自分らしくいられるのがこの声で歌うことでした。若い頃は自信が持てなくて苦しみましたが、自分は自分なんだ、ということが徐々に確立されてきて、今は米良美一という作品を受け取っていただけたらいい、という思いになっています」と米良。 村松も、子どもの頃から高い地声をからかわれてきたという経験を持つが、そのことが逆に自身の声への強い興味へと変化したのだという。 「自分にはこの声しかないので、ならばそれを綺麗で透明な球体のような声に磨こうと考えました。そのために最適なツールがクラシック音楽だった。ただ、声や技術を磨きながらも常に“Who am I ?”と問いかけ続けていました。自分という米良美一取材・文:室田尚子村松稔之 ©T.Tairadateものがわかったとき、初めて芸術家としてのスタートが切れたのだと思います。声に自身が反映する、という意味ではどの声種も同じかもしれませんが、カウンターテナーは特にアイデンティティと強く結びついているのではないでしょうか」 「カウンターテナーは“狭間”をいく声だから。ファルセットの高い声と地声の低い声とを上手に使って滑らかに行ったり来たりする。その妙技がカウンターテナー。私はそれを“この世とあの世を行ったり来たりしている声”だと感じています」 そんな米良の言葉に、カウンターテナーの声からいつも受け取る、なんともいえない官能的な魅力の理由がわかった気がした。「美を意識しないと仕上がらない」(村松)というカウンターテナーは、だから「美の伝道師」(米良)なのだ。そんな伝道師3人が贈る今回の「饗宴」は、きっとこの世とあの世の「美」の世界を繋いで見せてくれるような、またとない機会になるにちがいない。
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