取材・文:宮本 明 写真:中村風詩人すけど、それを先生は全然知らないはずだし…。どんな譜面で?(スタッフから三浦版を使うと聞かされ)へえー、じゃあ、あれを先生がOKしてくれたんだ。うれしいなあ」朴「私はコー・サンジさんという、韓国ではほぼ唯一のバンドネオン奏者の方と何度か演奏しているんですけど、彼女はいつも『自分はギターと一番相性がいい。この南米のキレキレの味や哀愁はギターじゃないと表現できない』と言ってくれて。たしかにそういう点が、バンドネオンとギターの共通点だと思います。歴史的にも、どちらも庶民の音楽の中から生まれてきた楽器なので、ソウルが合うように感じます」三浦「非常にわかります。だからこそ逆説的に、浜離宮のような素晴らしいホールで弾いた時に、また新しいものになりますよね」朴「そう! 新鮮ですよね。街の音楽が正式なコンサートで演奏されるのは、今だからできる、新しいことだと思うんです。 とくにピアソラは、庶民の音楽だったタンゴを“ピアソラ”というひとつのジャンルにした人です。それはギタリストとしては自信につながります。というのは、ギターも、昔はクラシックから疎外された存在で、いま日本ではもうしっかりクラシック・ギターというジャンルがありますけど、韓国ではまだまだ。でも、ピアソラの音楽のようにクラシックのひとつのジャンルにできるかもしれない。何十年かかっても、ピアソラが示してくれた道を私も進みたいと憧れています」三浦「素晴らしい! まったくそのとおり。僕も駆け出しの頃にずいぶん、『え、ホールでバンドネオン?』みたいなことを言われたのを思い出しました。 ピアソラには、そもそもジャンルなんていう考え方がくだらないとさえ思えてしまうぐらいの普遍性がある。だから世界中で聴かれているのだと思います。今回はキュヒさんと共演できなくて残念なんですけど、今度はぜひデュオで!」朴「ぜひぜひ! やってみたいです」Informationネストル・マルコーニ & 三浦一馬 〜バンドネオン・ヒーローズ〜8/24(木)19:00 浜離宮朝日ホール出演/ネストル・マルコーニ、三浦一馬(以上バンドネオン)、山中惇史(ピアノ)曲目/ピアソラ:アディオス・ノニーノ、天使のミロンガ マルコーニ:タンゴ・モード、クルブ・デル・ヴィーノ 他ネストル・マルコーニ & 朴 葵姫 〜スーパー・ソロイスツ〜8/25(金)19:00 浜離宮朝日ホール出演/ネストル・マルコーニ(バンドネオン)、朴 葵姫(ギター)曲目/ヒナステラ:ギター・ソナタ op.47 ガルデル:スス・オホス・セ・セラーロン、ポル・ウナ・カベサ、エル・ディア・ケ・メ・キエラス、クアンド・トゥ・ノ・エスタス トロイロ:チェ・バンドネオン、レスポンソ、ラ・ウルティマ・クルダ、スール ディアンス:タンゴ・アン・スカイ ピアソラ:アディオス・ノニーノ、天使の死、ベラノ・ポルテーニョ、ブエノスアイレスのマリア、ロ・ケ・ベンドラ、デカリシモ、タンゴの歴史 ■ 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/27ピアソラの示してくれた道を進みたい ネストル・マルコーニをご存じだろうか。生前のピアソラがその実力を認めた、もはやレジェンドと言える現代最高のバンドネオン奏者。日本のトップ奏者・三浦一馬の師でもある。8月に来日。浜離宮朝日ホールでの連夜の公演では、三浦、そしてギターの朴葵姫と日替わりで共演する。昨年11月にピアソラのメモリアル・コンサートで初めて顔を合わせたという三浦と朴。今年81歳を迎えた巨匠との共演へ向けて語ってもらった。三浦「フルネームはネストル・エウデ・マルコーニ。タンゴをルーツとしながらも、その枠に収まりきらない、ピアソラの流れを汲みつつ独自の世界を切り拓いているパイオニアです。僕がマルコーニさんの名前を最初に見たのはヨーヨー・マのピアソラ・アルバム(1997)だったかな」朴「じつは私の師匠のアルバロ・ピエッリ先生が、30代の時にピアソラと共演しているんです。その頃すでに大スターだったピアソラから直接電話がかかってきたので、最初、先生はいたずら電話だと思って切ってしまったんですって(笑)(*ピエッリとピアソラが共演したピアソラ『ギター、バンドネオンと弦楽合奏のための二重協奏曲』を収めたDVDが発売されている)。 ピアソラを通して自分の先生とつながっているマルコーニさんと共演させていただくことや、こうやって弟子同士、三浦さんとも関係が続くのは、不思議なご縁だなあと思っています」三浦「バンドネオンとギターの二重奏というのは、タンゴの歴史の中では古典的なんですけど、それがちゃんと譜面として確立されているかというと、これはまた別の話で。だから自分の師匠であるマルコーニさんが、どの曲をどういうふうに弾くのかなというのは非常に楽しみです。二人では何を弾くのですか?」朴「ディアンスの『タンゴ・アン・スカイ』とピアソラの『タンゴの歴史』です」三浦「『タンゴ・アン・スカイ』は、僕もよくいろんなギターの方と、自分でアレンジした譜面で弾くんで
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