第105回 「エンターテインメントにも『人生のダンス』が」 日本のダンスの場合、LGBTQや障がい者の問題についてはコンテンポラリー・ダンスよりストリート・ダンスのほうでアクティブに感じることが多い。 あらためてそう思ったのは、6月に開催された「FINAL LEGEND」の新プロジェクト「紅白コレオグラフィ合戦」だった。ストリート・ダンスをはじめとして様々なダンスがテクニック勝負に終始する中で、FINAL LEGENDは「作品創り」をコンセプトに展開してきた貴重な大会である。「Legend Tokyo」(DAZZLEや梅棒など時代を牽引する才能を輩出してきたコンペティション)受賞者の再演の場として開催されてきたのが「FINAL LEGEND」である。今回の紅白のチームも、もちろん性別で分けているわけではない。紅組総大将のavecoo自身もLGBTQで、今回は同性婚を描いた代表作『あべ子といち子』を上演して喝采を浴びていた。 ブレイキン、タップダンス、社交ダンスなど、様々なダンスが登場して鎬を削る。オレは「VIP来賓特別席」に呼んでもらった。実際にはちょっと投票の加点が大きめなだけの観覧席だったけれども。 各対決ごとにテーマがあるのだが「次世代コレオグラファー対決」で紅組代表になった由佳は、まさかの50歳代。しかし「BBAが夢を見たっていいじゃない!」というavecooの一言によって選ばれた。また、ちょっと見たことのないスタイルで惹かれたのがRandy Xtravaganzaだった。ヴォーギングとポッピンと謎の何かを足してかき混ぜたようなヤバい動きに魅了された。 そして幕間の応援として上演されたのが、手話とのコラボ。世界大会優勝のWREIKOが東京パラリンピック開会式で出会った、Deaf(聴覚障がい)のそれでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのためにダンサーGenGenと組んだスペシャル作品である。手話をダンスのように使う作品はめずらしくないが、観客は事前に「超えて~」と繰り返される歌詞に合わせる簡単な手話を習う。これはボーカル&手話パフォーマンスで世界的に活躍するHANDSIGNのオリジナル曲である。タイトルは『声手 ―こえて―』。なんと歌詞の「超えて」は「手話」のタイトルに通じていたのだ。 子どもも含む若いダンサー達が広い舞台のあちこちで短いソロを踊る。順番にスポットライトが当てられ、彼らの名前とともに各自が抱えている症状が字幕で示される。少し背の高い女の子は「ジスキネジア・身体が思うようにいかなくなる」と出ていた。それぞれのダンスはきわめてレベルが高い。観客は先ほど習った手話で一緒に踊り、共に「歌って」一体となったのである。 人は生まれ持った身体で生きていくほかはないが、それが望む形をしているとは限らない。そんな人々にとってダンスは、自分の身体と直面し、和解し、共に生きていくための拠り所になるかもしれない。 エンターテインメントに溢れたイベントだったが、人生に密着したダンス、人生そのものであるダンスをも実感できた舞台だったのである。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com130乗越たかお
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