eぶらあぼ 2023.5月号
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第360回 定期演奏会 5/10(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp5/20(土)14:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット問 横須賀芸術劇場046-823-9999 https://www.yokosuka-arts.or.jp63フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ シリーズ63 北原義嗣 ピアノ・リサイタルコンクール入賞から一年、色彩豊かなピアニズム再び 横須賀市出身の国際的ピアニストである野島稔の名を冠した、「野島稔・よこすかピアノコンクール」。昨年5月に開催された第9回は予選から白熱、技巧がクローズアップされがちなコンクールにあって、このコンクールの高い精神性、加えて瑞々しい感性を持つ参加者たちの演奏に、開催直前に逝去した野島の遺産を感じた。第3位入賞の北原義嗣は国立音楽大学、同大学院で学んだ俊英で、古(いにしえ)の名匠たちが持っていた温かい抒情性を感じさせるピアニストである。北原の恩師たちの顔ぶれからも分かる、良質のDNA。本選では一瞬審査の場であることを忘れる、まるでコンサートを聴いているかのような演奏を披露。うっとりするシューマンや奥行きのある光輝なメシアンなど忘れ難い。 あれから一年。温かき知性派である北原の今回のプログラムには、「なるほど! そう来たか!」と唸った。まずJ.S.バッハのイギリス組曲、それも最終曲の第6番。プレリュードからどのように構築していくのか興味津々。そして北原が大切にしているシューマン。今回はノヴェレッテから選りすぐりの2曲で、瞬く間に詩的なドイツ・ロマン派の世界へワープさせてくれるだろう。続いてショパンの3つのマズルカ op.56、ラストはシューベルトの「さすらい人幻想曲」という流れに、音楽史や楽器進化の歴史の観点からも、多くを聴き取れる興味深い内容である。何より豊かな音楽を持っているピアニストゆえ、風薫る五月に相応しい公演となるだろう。高関 健 ©K.Miuraまった。後半で引用される清々しいコラールが胸を打つ。独奏は並みいる優秀な若手の中でもいち早く才能を開花させ、着実に歩みを進める山根一仁だ。 オネゲルの交響曲第3番「典礼風」は大戦終了直後に作曲された。こちらもブリテン作品と同様に、3つの楽章山根一仁 ©K.Miuraのタイトルのそれぞれが、カトリックの死者のためのミサから取られている。社会における人間の抑圧、戦争の惨禍と恐怖、そしてそこからの解放と慰めが感動的な筆致で綴られる。 いまこの時にも、戦地では無数の別れが生まれているに違いない。平和への祈りを込めて耳を傾けたい。文:江藤光紀文:上田弘子高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団シーズン・オープニングは平和への願いを込めて 高関健の東京シティ・フィル常任指揮者のポストも、好評を得て9年目に入った。今回のシーズン・オープニングは、第二次世界大戦前後に書かれた追悼の音楽を集め、ストレートなメッセージを込めた。 ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」は、1940年に日本で行われた皇紀2600年記念式典のために書かれた。内容は両親の死を悼むもので、3つの楽章のそれぞれのタイトルはカトリックの死者のためのミサから取られている。内容的に祝祭にふさわしくないということから当時は演奏されなかったが、この時の各国への委嘱作の中では最大の名作として知られる。 ベルクのヴァイオリン協奏曲は、マーラーの妻アルマが建築家ヴァルター・グロピウスと再婚してもうけた娘マノンの死を悼んで書かれたが、完成して間もなくベルク自身も死去、結局自身にとってのレクイエムにもなってし

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