eぶらあぼ 2023.5月号
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「コロナ禍でいろいろな活動の縮小を余儀なくされました。そんな中で『大きいことはいいことだ』というCMの曲もある直純さんが作曲した作品を取り上げることは意味があって、なんでも小さくなるこの時代に大きいことの良さを、大人数の児童合唱とともに問いたいと思いました。子どもは未来の象徴ですから」48Interview山田和樹(指揮)開館50周年を神戸ゆかりの邦人作品で彩る 「現在、過去、未来を俯瞰する演奏会です。かつて岡山潔先生が心血注がれた神戸市室内管弦楽団との初共演、一人ひとりのレベルの高さが光る神戸市混声合唱団とともに、神戸の文化の歴史を形作ってきたホールの舞台に立つのを楽しみにしています」 神戸文化ホール開館50周年記念事業として開かれる「神戸から未来へ」と題されたガラ・コンサートに向けて、山田和樹は意気込みを語る。新作や演奏会では初演となる発掘作品も含め、すべて日本人作品による独創的なプログラムが編まれた。 冒頭は武満徹の「系図 ―若い人たちのための音楽詩―」。かつて岩城宏之が自身で小編成に編曲をした楽譜が使われる。 「武満さんの音楽が持つ抒情性がこんなに発揮された曲はないと思います。ただただ美しい作品ですね。谷川俊太郎さんの詩はどこにでもあるような家族の話なのですが、決してハッピーというわけではない。私という存在が時間や空間を超えていきます。今回その語りを担う宇田琴音さんにお会いした時に、彼女の目が素敵だなと思いました」 そこに続くのが神戸出身である大澤壽人の「ベネディクトゥス幻想曲」だ。戦時中の1944年に作曲され、49年にピアノ作品の傑作「2台のピアノのための組曲第2番」、ラフマニノフ最後の作品であり、自身が“最高傑作”と呼んだ「交響的舞曲」が並ぶ。高い技術とスケールの大きな音楽づくりを聴かせてくれることだろう。ロシアの音楽をレパートリーの中心としつつ、まったく異なる個性を放つふたりの独奏をそれぞれ楽しめるだけでなく、共演も聴ける一夜は、特別な体験となるはずだ。6/7(水)19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jpなってからラジオで放送初演された。 「まさに鮮烈な音楽です。自筆譜を見ても几帳面に書かれていて、ひとつひとつの音符に気品と知性が感じられます。オーケストラと合唱に加えてソロ・ヴァイオリンが書かれているというのが特徴的。今回初めて実際に音を出すわけですから、これから宝箱を開ける楽しみがあります」 ここに武満徹の「うた」から〈小さな部屋で〉〈見えないこども〉〈恋のかくれんぼ〉を神戸市混声合唱団によるア・カペラで。 「合唱界では有名な作品ですが、一般的にはまだまだ知られていません。ホールがあって、そこにプロのオーケストラと合唱団が両方あるなんてことは世界的にも類がない。ぜひ合唱だけの作品も演奏したいと思いました」 さらに神戸出身の作曲家、神本真理には新作が委嘱される。「未来に向けたメッセージをこめて、小さな子どもにも楽しめるもの」「初演の1回で終わらずに再演される作品を」と山田のリクエストがあった。 最後は山本直純の「えんそく」。これまでも山田が手がけてきた作品だ。神戸文化ホール開館50周年記念事業 ガラ・コンサート 「神戸から未来へ」5/19(金)18:30 神戸文化ホール問 神戸市民文化振興財団078-361-7241 https://www.kobe-ensou.jp上原彩子 ©武藤 章取材・文:小味渕彦之文:長井進之介©Zuzanna Specjal松田華音 ©Ayako Yamamoto上原彩子&松田華音 ラフマニノフ ピアノ・デュオ・リサイタルロシア音楽のスペシャリストふたりがソロとデュオで作曲家に迫る 生誕150年、没後80年というアニヴァーサリー・イヤーを迎えたセルゲイ・ラフマニノフ。今年は多くのコンサートで彼の作品が演奏されるが、中でも注目すべき公演は、上原彩子と松田華音によるオール・ラフマニノフ・プログラムだ。共に幼少期からモスクワ音楽院の名教授に指導を受け、“ロシアン・ピアニズムの継承者”として強い存在感を放つふたり。 ソロでは松田が練習曲集や「楽興の時」といった超絶技巧作品を演奏し、上原が前奏曲集からの抜粋で多彩な音楽性を見せてくれる。デュオでは2台

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