eぶらあぼ 2023.5月号
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第975回 定期演奏会Aシリーズ 【三善晃生誕90年/没後10年記念:反戦三部作】5/12(金)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp5/11(木)19:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp37“今”だからこそ痛切に響きわたる「反戦三部作」 お国が始めた戦争によって周囲のを得て、冥界へと音のアンテナを広げていく。二作目「詩篇」(1979)多くの人が落命し、自らも命を捧げるは「花いちもんめ」のメロディーでことを求められたのが昭和一桁世代。昭和8年(1933年)生まれの三善晃も閉じられるが、それは次の「響紋」(1984)で「かごめかごめ」へと変容そんな少年期を過ごした。し、死者の声を代弁するがごとくに、 戦後、東京大学文学部仏文科を卒業児童合唱が「うしろのしょうめん、だした後、パリに学んだ三善は、管弦楽あれ」と締めくくる。曲、ピアノ曲、合唱曲、電子音楽…どん 山田和樹は以前、東京混声合唱団な編成でも完璧なドラマを織り、一躍と2台ピアノリダクション版「レクイエスターになる。ム」を演奏したが、今回は満を持して ところがそんな端正で瀟洒な芸術家のオリジナル版「反戦三部作」一挙上というイメージを一気に吹き飛ばしてしまったのが、「レクイエム」(1972)で演だ。しかもこのプランはもともと2020年に予定されていた。それがある。特攻隊の青年の言葉を絶叫すコロナで延期になり、ウクライナ侵攻る合唱が、オーケストラの激しい咆哮にが始まって、三善生誕90年&没後10かき消される。生々しい殺し合いの場年にあたる今年へと持ち越された。を思い起こさせる音の濁流。生き延び巡り合わせを感じずにはいられない。た自分と死者を分けたものは何なのか――そんな不条理が三善の華奢な体の中にマグマのように溜まっていたことに、初演当時、誰もが驚いたという。 その後、三善は詩人・宗左近の言葉「女の愛と生涯」の物語にシューマン夫妻の佳品を編み込んで バッハ・コレギウム・ジャパンとの度重なる共演でもおなじみの英国のソプラノ、キャロリン・サンプソン。現代作品まで幅広いレパートリーを持つ彼女だが、ずっとバロックを主戦場としてきたという見方に異論を唱える人はいないだろう。そのサンプソンが近年積極的に取り組んでいるのが歌曲のレパートリー。録音でも2015年以降、最新盤のシューベルト集まで、歌曲アルバムをハイペースでリリースしている。5月に王子ホールで歌うのも、2年前にリリースした『女のためのアルバム』と同じ構成によるシューマン夫妻の歌曲集。選曲と構成がアイディアに満ちている。 シューマン「女の愛と生涯」の8曲をベースに、ロベルトやクララの他の歌曲やピアノ曲を加えて、シャミッソーの描いたヒロインの人生を、複眼的に、より充実したイメージで浮かび上がらせる全31曲のプログラム。 これはコンテキストの拡充という意キャロリン・サンプソン ©Marco Borggreve味だけでなく、クララが夫の作品を広めるために、彼の作品をどのように紹介していたのかを提示することにもなっているのが興味深い。歌でもピアノでも、シューマンは多くを「曲集」の形の連作として発表したが、クララは、そこから個々のナンバーを取り出して山田和樹 ©Zuzanna Specjalジョゼフ・ミドルトン ©Sussie Ahlburg組み合わせ、より変化に富んだプログラムを作り出したといわれる。サンプソンはそれを再現しているのだ。 ピアノは歌曲ピアノの名手ジョゼフ・ミドルトン。ライブでもCDでも、歌曲でのサンプソンの欠かせないパートナーだ。文:江藤光紀文:宮本 明山田和樹(指揮) 東京都交響楽団キャロリン・サンプソン(ソプラノ) & ジョゼフ・ミドルトン(ピアノ)〜ロベルト&クララ・シューマンの歌曲集から8つの情景〜

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