eぶらあぼ 2023.5月号
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35ド・ウッダール・ネイラー作曲(大橋晃一編)《序曲『徳川頼貞』》の2曲で参加することになった。 だが、なぜか9月にホールでの演奏を本番さながらに録画することになった。実は、それは天皇皇后両陛下にお見せするための動画だったのだ。森貞先生だけが事情を知っていた。 10月になり、「紀の国わかやま文化祭2021」が開催された。椛、浩輝、昴史の3人は記者会見場のようなテーブルの前に緊張の面持ちで座っていた。目の前にはテレビモニターがある。そこに映っているのは、なんと両陛下だった。コロナ禍で両陛下の開会式ご参加は果たせなかったが、代わりにオンラインでご参加され、出場者代表とモニター越しに交流されることになっていたのだ。その代表者として森貞先生が推薦したのが3人だった。 椛は天皇陛下からコロナ禍での部活動の大変さを尋ねられた。なかなか全員で練習できず、大人数での活動の醍醐味が味わえないものの、仲間と一緒に重ねた時間は一生の宝物になる、といったことを椛はお話しした。 浩輝は、ヴィオラ奏者でもいらっしゃる天皇陛下からコントラバスのことを尋ねられた。ソロのコントラバス奏者のゲイリー・カーの映像をよく見ていることをお話しすると、陛下もカーをご存知とのお話があった。思わず浩輝の口元も綻んだ。 昴史は、打楽器の楽しいところや良いところを尋ねられた。縁の下の力持ちで、バンドに迫力を与える点を申し上げたが、自分の言葉に相槌を打たれる陛下のご様子に心が温かくなった。 交流が終わった後、3人は興奮した様子でこんなふうに喋り合った。「人生でいちばん緊張した! まだ実感ないわ!」「こんな経験、えぐいよな……」「脚震えてるし、心臓の鼓動が早い!」 だが、話はそこで終わらなかった。 2023年1月。部活動を引退し、高校生活も終わりに近づいた3人は、またも驚きに打たれた。テレビ番組で「歌会始の儀」の様子が放送され、「友」というお題で天皇陛下が詠まれたのは《コロナ禍に友と楽器を奏でうる喜び語る生徒らの笑み》という一首。あのオンラインでの対話が歌になったのだ。3人は自宅のテレビでその様子を見た。「自分たちがコロナ禍でもがいたこと、その中で工夫して一緒に音楽を楽しんだことが陛下の心にも残ったなんて、光栄なことやな」と椛は思った。「心残りなこともたくさんあったけど、陛下に覚えていただけたのは、コロナ禍だったからこそや」「コロナ禍でも深められた友情が陛下の歌になった。挫けずに頑張ってきて本当によかった」 浩輝と昴史もそれぞれに感動を覚えた。 コロナに塗りつぶされた青春。それでも仲間たち《コロナ禍に友と楽器を奏でうる喜び語る生徒らの笑み》 椛は改めてその歌を口ずさみ、思った。「この3年間はコロナだけやない。喜びや笑顔もいっぱいある、私たちの青春やったんや」左より末永浩輝さん、有本昴史さん、近西椛さん襟元に星のマークが輝くオリジナルユニフォームを着て3人は去る3月、星林高校を卒業と絆を深め、精いっぱい音楽を楽しんできた。だからこそ、天皇陛下の歌になった。♪♪♪拡大版はぶらあぼONLINEで!→♪♪♪星林高校は、万葉集にもゆかりの深い和歌の浦のほど近くにある

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