eぶらあぼ 2023.5月号
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126永訣の白い響/奈良ゆみ&椎名亮輔ハープの香り/福井麻衣リヒャルト・シュトラウス:ホルン作品集/福川伸陽パルナッソス山への階梯/ジャン・ロンドー幅広い音楽性を誇るソプラノ・奈良ゆみと、音楽美学・音楽哲学の分野で活躍するピアニスト・椎名亮輔の名コンビによる、迫りくる“死”の予感がテーマの意欲作。ソクラテスの最期という設定のプラトン対話篇『パイドン』をクライマックスとするサティ晩年の交響的ドラマ作品が醸す不思議な抑揚感。コラール風ピアノを挟んで歌う聖なる〈魂の歌〉や伝記作者ジャネスの詩に書いた「夢のたたかい」等モンポウ作品のたたえる深い悲しみ。そのどちらも捨てがたいが、17歳で夭折したロシアの女性詩人クルマンの歌、かのメアリ・スチュアート女王の辞世、それぞれに作曲したシューマンの2作品も壮絶。(東端哲也)特殊奏法を駆使したジャジーな1曲目のベルナール・アンドレス「デューク」で最大公約数的なハープに対するイメージがまずは覆される。理屈抜きに愉しい。最後の収録曲はハープソロのための演奏時間10分を超える傑作、サン=サーンスの幻想曲。掴みと締めできっちりと引き締める中にエスプリに満ちたタイユフェールやあまねく有名なドビュッシーの親しみやすい小品、そしていささか通向けのルーセルおよびピエルネなどを挟み込む構成の妙味。変化に富んで全く飽きさせないが、それも繊細かつスケールの大きさを誇る卓抜な福井麻衣の演奏あってこそ。ハープの素晴らしさを広く知らしめる1枚。(藤原 聡)日本を代表するホルン奏者・福川伸陽が、10代から最晩年に至るR.シュトラウスの同楽器作品を鮮やかに表現した、中身の濃い1枚。選曲と構成も1つのアルバムとして実に意味深い。福川の豊麗な音色と抜群のテクニックは言わずもがな。何より歌に充ちた節回しが魅力的だ。2つの協奏曲は、60年に達する作曲年代の違いと不変の部分を共に実感させてくれるし、珍しいホルン付きの歌曲と「月光の音楽」の美しさや、難技巧部分の滑らかさにも感嘆させられる。山下一史&愛知室内オーケストラ、ピアノの山中惇史、ソプラノの小林沙羅と揃った共演陣も濃密な好演を展開。 (柴田克彦)ブルージュ国際古楽コンクールチェンバロ部門で第1位を獲得後、世界的に活動を展開するジャン・ロンドー。ジャズにも関心を寄せ、多様な文化に見識が深い彼は、演奏の巧みさと共にその独自の音楽活動で注目を集めている。今回ロンドーは、アルバムタイトルにもなっているクレメンティの楽曲をはじめ、パレストリーナ(伝)からフックス、モーツァルトにベートーヴェンなど様々な時代の教本的作品を独自の視点で集め、華麗な演奏を聴かせている。鍵盤音楽の歴史と共に変化する音楽観までも味わえる、彼だからこそのプログラミングに驚嘆する1枚である。 (長井進之介)R.シュトラウス:歌劇《カプリッチオ》より間奏曲「月光の音楽」、ホルン協奏曲第1番・同第2番、序奏 主題と変奏 変ホ長調、アンダンテ ハ長調、アルプホルン福川伸陽(ホルン)山下一史(指揮) 愛知室内オーケストラ小林沙羅(ソプラノ)山中惇史(ピアノ)サティ:ソクラテス―声楽をともなう3部の交響的ドラマ/モンポウ:魂の歌、夢のたたかい/シューマン:エリザベート・クルマンの詩による7つの歌 この詩人の思い出に捧ぐ、メアリ・スチュアート女王の詩奈良ゆみ(ソプラノ)椎名亮輔(ピアノ)アンドレス:デューク/タイユフェール:ハープのためのソナタ/ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女、夢、月の光/ルニエ:いたずら小鬼の踊り/ルーセル:即興曲/ピエルネ:奇想的即興曲/フォーレ:即興曲/サン=サーンス:幻想曲福井麻衣(ハープ)パレストリーナ(伝):第1旋法によるリチェルカーレ/フックス:アルペッジオ/クレメンティ:「パルナッソス山への階梯」より〈序奏:アンダンテ・マリンコーニコ〉/ベートーヴェン:12の長調にわたる2つの前奏曲第2番/モーツァルト:幻想曲 ニ短調 他ジャン・ロンドー(チェンバロ)ERATO/ワーナーミュージック・ジャパン5419.741617 ¥オープン価格コジマ録音ALCD-7292 ¥3300(税込)録音研究所(レック・ラボ)NIKU-9052 ¥3080(税込)キングレコードKICC 1609 ¥3300(税込)CDCDCDCD

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