eぶらあぼ 2023.5月号
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120モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番・第4番/エベーヌ弦楽四重奏団&アントワン・タメスティモーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」・第39番/沼尻竜典&トウキョウ・ミタカ・フィルモーツァルト:交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」、同第39番 変ホ長調沼尻竜典(指揮)トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア福士則夫 打楽器作品集/上野信一&フォニックス・レフレクション福士則夫:海を渡る鐘の音、樹霊、グラウンド、青海波、赤道のゼフィルス、スコール!、カップル、海流、手のための〈ていろ〉上野信一&フォニックス・レフレクション(パーカッション)エベーヌ弦楽四重奏団とヴィオラのタメスティが、モーツァルトの名作五重奏曲に取り組んだ。2004年ミュンヘン国際音楽コンクール各部門の優勝者同士という縁があり、いまやそれぞれがトップに君臨する両者だけに、隙のないアンサンブルと音色の統一は当然のように最高水準、ニュアンスは緻密を極める。紛れもない名演。むしろ表現としてはストイックにすら感じられ、20年6月、ロックダウンの合間のパリでの録音ということも関係するだろうか。4番の緩徐部分の詩情と哀感は深く、最後ト長調に転じてもその影が感じられる。なお、3番の中間楽章はメヌエット―アンダンテの順。(林 昌英)沼尻竜典の手兵トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアは、弦の透明な響きと若々しいエネルギーが魅力的だ。モーツァルトの交響曲「ジュピター」第1楽章は、堂々たる風格があり、生き生きとしたリズムに爽快感がある。パウゼにも緊張がみなぎる。緩徐楽章の推移楽句の摩擦音など鋭い不協和音もたまらない。メヌエット中間部の擬似対位法による高揚も素晴らしい。終曲のフーガは美の極み。前半と後半が反復されて、対位法的テクスチュアによる声部の綾を存分に味わえる。コーダの五重ストレッタによるクライマックスは感動的だ。交響曲第39番もリズムの躍動感とスピーディーな展開が秀逸だ。(横原千史)東京藝術大学卒業後、ヨーロッパで研鑽を積んだピアニストの新井眞澄。現在ドイツを拠点に、ソロはもとより室内楽や教育活動にも力を入れる彼女が初のCDをリリースした。収録曲はかねてから力を入れているシューマンの「クライスレリアーナ」に「アラベスク」、さらにモーツァルトのアダージョ(K.540)とロンド(K.485)。新井の音色は非常に清潔感がありながら多彩なニュアンスに富んでおり、特にタイトルにもなっている「クライスレリアーナ」ではその変容を存分に楽しむことができる。またモーツァルトではその音色にさらに輝きが加わり、優美で格調高い世界が広がっている。(長井進之介)1970年代より福士則夫は未開拓のジャンルであった打楽器を用い、ユニークな世界を作り上げてきた。様々な素材を叩くことで生まれる無限の音色とリズム、そこに加えられる掛け声やつぶやき――福士の筆先は近作にいくにつれ自由度とユーモアを増していく。また作品ごとに奏者が異なり、新たな才能に出会えるのも楽しい。優れた先行奏者たちとのコラボによって生まれた作品が、上野信一を筆頭に、着実に次の世代に受け継がれ、しかもそれぞれの演奏が作品をしっかりと消化し手の内に入れていることに、驚きと頼もしさを感じた。ソリストクラスの技術を持った若手がこれだけいるのだから、日本は立派な打楽器大国だ。(江藤光紀)収録:2019年3月&2020年8月、三鷹市芸術文化センター(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00741 ¥3520(税込)コジマ録音ALCD-7288,7289(2枚組) ¥3960(税込)モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番、同第4番エベーヌ弦楽四重奏団【ピエール・コロンベ ガブリエル・ル・マガデュール(以上ヴァイオリン) マリー・シレム(ヴィオラ) ラファエル・メルラン(チェロ)】アントワン・タメスティ(ヴィオラ)ERATO/ワーナーミュージック・ジャパン5419.721332 ¥オープン価格モーツァルト:アダージョ ロ短調 K.540、ロンド ニ長調 K.485/シューマン:クライスレリアーナ op.16、アラベスク op.18新井眞澄(ピアノ)sonoritéSNRT2302 ¥3080(税込)CDSACDCDCDKreisleriana/新井眞澄

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