eぶらあぼ 2023.4月号
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取材・文:岸 純信(オペラ研究家) この1月のNHKニューイヤーオペラコンサートで、ソプラノ高橋維は《ホフマン物語》の人形のアリアを歌い、カデンツァで超々高音ハイA♭(夜の女王のハイFよりも2度半高い)を出して大喝采を浴びた。新潟県の直江津に生まれた彼女は、雪国の人ならではの忍耐力を持ちつつ、ここぞというときには勝負に出る舞台度胸も有している。 その高橋が、4月下旬にロームシアター京都での《フィガロの結婚》ハイライト上演(演奏会形式)に出演とのこと。今の彼女は、ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》やグノー《ロメオとジュリエット》などコロラトゥーラの華やかなレパートリーを主流とし、将来的にはドリーブの《ラクメ》も歌いたいそうだが、今回の《フィガロの結婚》の小間使いスザンナは、五線譜下の音もたびたび出すなど深い人情味も漂わせる役どころ。さて、どう取り組むか? 「実は、スザンナは2016年の東京二期会公演で演じているんですね。ただ、今回は久しぶりですので、またいろいろ探りながら取り組みたいです。いまの私はコロラトゥーラが主体ですが、人間の身体の不思議といいますか、上の音域と下の音域は繋がっていて、上がよく出れば下も出るようになるという状況が実感できています。スザンナの人物像にもより近づけたらと思います」 《フィガロの結婚》は従僕フィガロが伯爵の横暴に抵抗する物語。そのフィガロを支えるのが婚約者のスザンナ。「あらゆるオペラで最も歌詞の量が多い女声役」と言われるぐらい出番が多く、人々をすぐさま惹き付ける人気のキャラクターである。 「そうなんです! 楽譜を読むと、『え、まだあるの?』と思うぐらい(笑)、舞台に出ずっぱり。演じる要素の強い役だと思います。劇中ではフィガロだけでなく、敵味方のいろんな人と渡り合いますね。フィガロとも、たぶん年齢差がかなりあるはずですが、常に対等に接します。フィガロも多分、そんな彼女にメロメロなんだろうなと思うんですよ!」 ところで、高橋は現在もウィーンに留学中の身。ウィーンといえばモーツァルトが《フィガロの結婚》を初演した土地である。 「留学先はウィーンしか考えていませんでした。ローム ミュージック ファンデーションさんの奨学金をいただけて本当に有難かったです。モーツァルトやR.シュトラウスのオペラが本当に好きで、同じくウィーンが舞台の《ばらの騎士》のゾフィーも将来演ってみたい役なのです・・・。いま思い出しましたが、シェーンブルン宮殿の庭を散歩していて日が暮れたとき、それこそ真っ暗になり、『ここで迷子になったら助からない!』と慌てました(笑)。《フィガロ》の終幕も暗闇のシーンですね。ウィーンで初めて、その世界観に触れた気がしました。『あのドタバタのシーンは、本当に、こんな真っ暗な中でやっていたんだ!』と実感できたんです。指揮の田中祐子さんや演出の田尾下哲さんともご相談しながら、演奏会形式の中でもできる限り動いて、演技してゆきたいです」 ところで、今回の《フィガロの結婚》は、原作者(フランスの劇作家ボーマルシェ)を同じくし、共通の登場人物も多い《セビリャの理髪師》(ロッシーニ)のハイライトとのダブル・ビル。ローム ミュージック ファンデーション主催の「ローム ミュージック フェスティバル2023」の目玉公演である。 「ロームシアター京都で歌わせていただくのは初めてです。声域がどんどん広がっているいま、歌うことが楽しくてしょうがありません。今回は二重唱をいくつか歌う一方で、第4幕のしっとりした〈恋人よ、早くここへ〉も歌わせていただきます。テンポはゆったりとしていますが、歌うには本当に難しいアリアです・・・。当日は、オペラ2作のハイライトを続けて上演ということで、出演者も多く、賑やかな舞台になると思いますが、それだけに、肩の凝らないステージとして楽しんでいただけたら幸いです。オンラインもございます。ご来場、ご視聴をお待ちしています!」Profile新潟県出身。東京藝術大学大学院修士課程独唱専攻修了。第27回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞を機にウィーンに留学し、明治安田クオリティオブライフ文化財団、ローム ミュージック ファンデーションの助成を得て研鑽を続けている。オペラでは《魔笛》夜の女王、《フィガロの結婚》スザンナ、《ナクソス島のアリアドネ》ツェルビネッタ、《ランメルモールのルチア》タイトルロールなど、多くのプロダクションで主演。NHK『ららら♪クラシック』、テレビ朝日『題名のない音楽会』等メディアにも出演し注目を集めている。二期会会員。39スザンナは演じる要素の強い役、彼女の人物像により近づきたい

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