eぶらあぼ 2023.4月号
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必聴名盤がまた一つ生まれた。舘野泉は世界中の作曲家から左手のためのピアノ作品を捧げられているが、その充実した作品のいくつかを本CDにまとめた。レコーディングは86歳を迎えた昨年11月。先立つ10月に他界した一柳慧の「ファンタジア」を冒頭に配置した。緊張感と柔らかさ、よく伸びるピアノの音色が魅力的だ。藤田真央が参加しているエスカンデの3手連弾作品「音の絵」の〈砂に埋もれた犬〉には深い呼吸が一体化する二人の演奏に感極まる。吉松隆「アイノラ抒情曲集」や、梶谷修「風に…波に…鳥に…」の透明度の高い響きにも耳を澄ませていただきたい。(飯田有抄)イム・ユンチャン、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール優勝後の初録音。ホン・ソグォン指揮、光州交響楽団との一公演のプログラムがまるまる収録されている。「皇帝」冒頭は、肩の力が抜け、同時に華やかなピアノで始まり、細部まで大切にしたタッチと潔さが良いバランスで両立されつつ起伏に富んだ音楽が展開する。アンコール3曲の選択にも若者の感性があらわれているが、特にスクリャービンの幻惑的な音は耳を惹きつけ、その後の熱狂的歓声とのギャップも含めておもしろい。尹伊桑とバーバーも併せて演奏された“反逆と平和の音楽”をテーマとしたプログラムだったようだ。(高坂はる香)声楽曲のソリストを中心にキャリアを積み重ねてきたソプラノ・隠岐彩夏のデビュー盤。学生時代にシューマン歌曲を研究し、実生活では2児の母親でもある彼女に歌われることで説得力と心からの共感を生む「女の愛と生涯」を筆頭に、バーバーの〈ノックスヴィル 1915年の夏〉など、一枚の中に人生のあらゆる場面が散りばめられているかのよう。R.シュトラウスの〈明日!〉は言うまでもなく、歌姫ネリー・メルバのために書かれた本盤タイトル曲などで矢部達哉のヴァイオリンが冴え、全編で横山幸雄のピアノによる好サポートが光る(彼とのコラボによる書き下ろし曲も収録)。(東端哲也)東京フィル首席にして、日本を代表する名ヴィオリスト、須田祥子。彼女が結成したヴィオラ・アンサンブル「SDA48」の待望のセカンドアルバムは、ヴィオラの喜び爆発。《ウィリアム・テル》から圧巻で、この楽器の表現力の見本市さながらのすてきな編曲かつ演奏。序奏の濃密な美しさ、キレッキレのファンファーレと行進曲の痛快なこと! ジェイコブとボウエンのオリジナル作品は貴重な発見で、この編成の魅力作が増えたうれしさと充実感。「剣の舞」で強烈な奏法を炸裂させた後、本領である温かく包容力ある響きの「アヴェ・ヴェルム~」で余韻を残す。ヴィオラの懐深さよ!(林 昌英)オクタヴィア・レコードOVCT-00206 ¥3520(税込)130一柳慧:ファンタジア ―左手のピアノのための/パブロ・エスカンデ:音の絵 ―3手連弾のために/吉松隆:「アイノラ抒情曲集」より〈第1曲「ロマンス」〉〈第5曲「モーツァルティーノ」〉〈第3曲「バラード」〉/梶谷修:風に…波に…鳥に… 他舘野泉 藤田真央(以上ピアノ)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/尹伊桑:交響詩「光州よ、永遠に」/バーバー:弦楽のためのアダージョ op.11/スクリャービン:「2つの詩曲 op.69」より〈第1番〉、「3つの小品 op.45」より〈第1番 アルバムの綴り〉 他イム・ユンチャン(ピアノ)ホン・ソグォン(指揮)光州交響楽団収録:2022年10月、韓国(ライブ)ユニバーサル ミュージックUCCG-1899 ¥3080(税込)シューマン:女の愛と生涯/バシュレ(松岡あさひ編):愛しの夜/バーバー:ノックスヴィル 1915年の夏/R.シュトラウス(松岡編):「4つの歌曲」より〈明日!〉/横山幸雄:静かな夜に 他隠岐彩夏(ソプラノ)横山幸雄(ピアノ)矢部達哉(ヴァイオリン)キングレコードKICC-1604 ¥3300(税込)ロッシーニ(飯田香編):歌劇《ウィリアム・テル》序曲/ジェイコブ:8つのヴィオラのための組曲/ボウエン:4つのヴィオラのための「ファンタジー」/モーツァルト(ディッシンガー編):アヴェ・ヴェルム・コルプス 他SDA48【飯田香 諌山翔一 大島亮 加藤大輔 小中澤基道 須田祥子 高木真悠子 長石篤志 羽藤尚子 平野幸世 古屋聡見 松本有理(以上ヴィオラ)】SDA48SDAV-10001 ¥3300(税込)SACDCDCDCD風に…波に…鳥に…/舘野泉ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》他/イム・ユンチャン愛しの夜/隠岐彩夏ヴィオラ・インフィニティ/SDA48

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