eぶらあぼ 2023.4月号
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本盤にはシューベルトが31年という短い生涯で遺した1000曲以上の作品の中から「ロンド」や「アレグレット」など演奏機会の少ないものも含め、晩年の独奏曲と連弾曲が収録されている。まず耳を奪われるのは青柳いづみこの美しい音色と細やかなニュアンスが魅力的な「4つの即興曲」D899。一つひとつの音のデリケートな扱いはフランスものを得意とする彼女ならでは。高橋悠治との連弾による「幻想曲 ヘ短調」D940も注目のトラック。音色、スタイルの対照的な二人の音楽が絶妙なアンサンブルのやりとりで見事に調和していく。ベヒシュタインのピアノの音色も全編を通して魅力的な響きを聴かせてくれる。(長井進之介)近年、快調ぶりを増しているノット&東響のマーラー第5番。まず、たっぷりとした鳴りに耳を奪われる。トゥッティではスピーカー越しに衝撃波までが伝わってきそうな勢いだ。堂々と構築した両端楽章に加え、第2楽章では各楽器が交わす悲鳴にも似た壮絶なこだま、スケルツォでは静と動の鮮やかなコントラスト、アダージェットはじっくりと歌い込んだ濃厚なロマンなど、随所ではっとさせられる瞬間があった。隙がなく精度が高い硬質の演奏を聴かせてきた両者だが、そこにより激しい情感の動きやヒューマンな温もりが加わってきたように感じる。長年の協業で培われた信頼関係が生んだ佳演だ。(江藤光紀)元・N響首席の岡崎耕治と都響やオーケストラ・アンサンブル金沢の奏者によるファゴット四重奏のアルバム。同楽器独特の音色感や歯切れ良さ、幅広い音域を生かした多彩な内容が魅力をなしている。最初に置かれたアレンジ曲はどれも軽妙で実に愉しく、続くオリジナル作品グループは、変奏曲あり、有名旋律の混入あり、歌心満載の局面あり、コントラファゴットのソロあり…と興味津々の演奏が続く。最後のパッヘルベル「カノン」の響きも新鮮だ。精緻なアンサンブルや音色ブレンドの妙も耳を楽しませ、この楽器の魅力を再発見させる本盤は、専門外のリスナーも一聴に値。(柴田克彦)意外にも初めてだという、アルゲリッチとイスラエル・フィルによる録音。共演は同楽団音楽監督の気鋭指揮者でピアニストでもあるシャニ。ベートーヴェンの第2番は、アルゲリッチのクールな美音があたたかいオーケストラのサウンドの上で冴える。ラヴェルではヴィヴィッドな第1、3楽章も魅力だが、耳を撫でるような第2楽章のきらめき揺らぐピアノの音が、静かに強い印象を残す。柔軟にピアニストを追いかけ、支え、対話するイスラエル・フィルの演奏も手伝って、歳を重ねてもなお全く変わらぬアルゲリッチのキレの良い機敏なタッチ、表情豊かな音楽を存分に堪能できる。(高坂はる香)コジマ録音ALCD-7287 ¥3300(税込)収録:2022年7月、サントリーホール 他(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00808 ¥3520(税込)収録:2019年12月、テルアビブ(ライブ)Avanti classic/ナクソス・ジャパンNYCX-10385 ¥3300(税込)124シューベルト:ロンド イ長調 D951、幻想曲 ヘ短調 D940、子供の行進曲 D928(以上連弾)、アレグレット ハ短調 D915、4つの即興曲 D899青柳いづみこ 高橋悠治(以上ピアノ)マーラー:交響曲第5番ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団アンダーソン(ジャクソン編):ファゴット吹きの休日(トランペット吹きの休日)/スキロウ:ミスター・ミッドシップマン・バスーンブロワー/ブラウン:フェーンシュトゥッケ/ペーター:勇敢な騎士とその友人たち/パッヘルベル(メンデンホール編):カノンクアドリ・ファゴッティ【岡崎耕治 向後崇雄 金田直道 山田知史(以上ファゴット)】マイスター・ミュージックMM-4515 ¥3300(税込)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調/ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)ラハフ・シャニ(指揮)イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団CDSACDCDCDシューベルトの手紙/青柳いづみこ&高橋悠治マーラー:交響曲第5番/ジョナサン・ノット&東響ファゴット吹きの休日/クアドリ・ファゴッティアルゲリッチ・プレイズ・ベートーヴェン&ラヴェル/マルタ・アルゲリッチ&ラハフ・シャニ&イスラエル・フィル

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