eぶらあぼ 2023.3月号
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いう3曲の演奏を予定していた。3曲目はオリジナルの振り付けをしながら演奏する。 フルート担当の田中結莉乃(2年)は振付のリーダーであるP3(ピースリー)リーダーだ。「去年の悔しさは絶対に味わいたくない。国府台のみんなの持っている力を出せるようにしたい!」 一方、同じフルート担当で、副部長の柏倉葵(2年)は結莉乃のことを思っていた。「去年の先輩たちのようにみんなが泣く姿を見たくないし、何より田中の涙を見たくない」 そのためには優勝という「結果」が欲しかった。 本番に向けて、部員たちの気持ちも演奏も高まっていた。そして、大会前日の12月23日、思いがけない出来事が国府台に起こったのだった。 音楽室で最後の練習をしていたときのことだ。 茶道部の先生がベレー帽をかぶった上品な老人を連れてやってきた。82歳とのことだった。「うちにいらっしゃったお客様で、聞こえてきた《シング・シング・シング》に感動して、ぜひ聴かせてほしいということなんですけど……」 部員たちは戸惑いながらも練習を続けた。 指揮する須藤先生の横に腰掛けた老人は、演奏に合わせて体を揺らし、乗ってくれた。そして、ジャズのライブのように「イエイ!」と掛け声をかけ、心から音楽を楽しんでいた。 その様子を見た部員たちは、徐々に自分たちもテンションが上がり、一体感が高まるのを感じた。「みんながイキイキして、空間がうねっているみたい! あぁ、吹奏楽を8年間続けてきたけど、私がやりたかったのはこれだったんだ。吹奏楽をやっていて本当によかった!」 フルートの葵は演奏しながら鳥肌が立った。「私、わかった。音楽は優勝するためだけにやるものじゃない。伝えることが大事なんだ!」 結莉乃もそう思いながらフルートを吹いた。 トランペットの首席奏者で、《シング・シング・シング》でソロを吹いた脇田七緒は、老人が音楽を楽しむ姿にこの上ない喜びを感じた。「目の前のたったひとりを楽しませることができたんだから、きっと明日も大丈夫。会場中の人を笑顔にすることができるはず!」 吹奏楽部のスローガンは「魔法をかける鴻陵サウンド」だが、逆に部員たちが老人によって魔法にかけられたかのようだった。 全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール全国大会の本番。国府台は昨日感じた音楽の喜びをそのままステージで演奏し、見事優勝を成し遂げた。 葵は号泣しながらこう思った。「優勝は嬉しい。それ以上に、昨日みんなで感じた鳥肌が立つような一体感を味わえたことが嬉しい。私はあの瞬間を一生忘れない!」 それは国府台高校吹奏楽部の部員たちが見つけた「音楽の魔法」だった。49第7回全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール全国大会の様子提供:株式会社フォトクリエイト左より:田中結莉乃さん、脇田七緒さん、柏倉 葵さん♪♪♪拡大版はぶらあぼONLINEで!→♪♪♪

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