身の作)が素晴らしい」上に、本作の聴きどころは尽きない。 「第2楽章が画期的です。ホ長調というハ短調からかけ離れた調に移って、最初の方に長いペダルの指定があります。それによって遥か遠くから声が聞こえてくるような、神聖な祈りのようなイメージが生まれます。また、途中に管楽器が吹く旋律をピアノが伴奏する場面があって、この上なく美しい旋律が書かれています。第3楽章は、リズミカルでベートーヴェンらしい皮肉がこもった音楽ですが、最終的にハ長調へ向かっています。悲劇的に始まって最後は希望が見える。この点では『運命』交響曲に繋がります」 今回は「指揮者なし」も1つのポイントだ。 「弾き振りではないので、一緒に弾くという感じですね。彼らがどう表現してくるか楽しみですし、編成的に管楽器の位置が近いので直接対話できるのも魅力。ベートーヴェンあたりまでの管弦楽作品は室内楽の延長のような面を持っていて、今回は特に第2楽章にそうした楽しさがあります」 ちなみに公演が3年延びたことに対しても、「この3年に弾き振りのコンサートが2〜3回あり、指揮者なしで演奏する経験を重ねたのは良かった」と語る。 また本公演には22歳以下を対象とした廉価の「ハッピーシート」も用意されている。 「若い人の方が純粋に音楽に入れると思うので、こういうものだと決めつけないで感じるままに聴いてほしい。本物のクラシックをウィーンの素晴らしいオーケストラで聴けば、生き生きとした音楽そのものを感じ、その楽しさを分かち合えると思います」 プログラム全体も、小菅が「大好き」と話すオーボエとヴァイオリンのための協奏曲等のバッハ作品や、ピアノ協奏曲第3番から繋がるベートーヴェンの「運命」交響曲が組まれた濃密な内容。日本きっての実力派・小菅優のソロはもとより、すべてに魅力満載の公演だ。Profile2005年カーネギーホールで、翌06年にはザルツブルク音楽祭でそれぞれリサイタル・デビュー。ドミトリエフ、デュトワ、小澤征爾等の指揮でベルリン響等と共演。10年ザルツブルク音楽祭でポゴレリッチの代役として出演。その後も世界的な活躍を続ける。現在は様々なベートーヴェンのピアノ付き作品を徐々に取り上げる新企画「ベートーヴェン詣」に取り組む。14年に第64回芸術選奨音楽部門 文部科学大臣新人賞、17年に第48回サントリー音楽賞受賞。33取材・文:柴田克彦ウィーンの音楽家たちとのベートーヴェンが本当に楽しみです ベルリンを拠点に活躍する国際的ピアニスト・小菅優は、この4月、日本の3都市で「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」と共演する。同楽団は、ウィーン・フィルやウィーン国立歌劇場のメンバーを中心とした指揮者なしの室内オーケストラ。ウィーン・フィルのコンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデが芸術監督を務めている。演目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。これは元々2020年に予定されていたが、コロナ禍で中止が続き、遂に4年越しとなったファン待望の公演だ。 同楽団とは初共演の小菅だが、ウィーンとの縁は浅くない。 「以前ザルツブルクに10年も住んでいたので、ウィーンに入り浸っていました。今も年2回位は行っています。リラックスした感じや伝統を大事にする雰囲気がありますし、リズム感が全然違いますよね。ウィーンのリズムは円。ワルツだけでなく、ベートーヴェンの3拍子系の音楽からもそれが伝わってきます。ウィーン・フィルや国立歌劇場も数え切れないほど聴いていますが、やはり独特のリズム感や音の柔らかさを感じます」 今回は「ウィーン室内管弦楽団と演奏して以来約10年ぶりのウィーンのオーケストラとの共演」となる。 「シュトイデさんは、ウィーン・フィルの公演等で聴いていて、素晴らしいコンサートマスターだと思っています。今回のオーケストラが持っているベートーヴェンに対するウィーンならではの音楽性が刺激になればいいですし、新しく見えてくるものが絶対にあると思うので、自分の考えとは違う音楽が生まれるかもしれません。そうした共演者による変化も面白いところ。それをお客さんにも体験してほしいですね」 第3番は、「10代の頃から演奏し、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中では第4番と並んで弾いた回数が多い作品」との由。 「ハイリゲンシュタットの遺書が書かれた頃、つまり壁にぶつかって物凄い成長を遂げた時期の作品。協奏曲もこの曲からとてもシンフォニックになり、管楽器の扱いなども進化していきます。それに、ベートーヴェンの協奏曲中唯一の短調作品で、しかも『運命』交響曲や『悲愴』ソナタと同じハ短調。ゆえにドラマティックで悲劇的ですが、すごく抒情的な面もあります」 中でも「第1楽章のカデンツァ(ベートーヴェン自
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