CDSACDCDCD124最弱音にあっても、すーっと伸びてゆく音。強奏にあって潰れず、構成音がすべて耳に届くコード。粒立ち良く、しかし各々の音が均一ではなく、個性を持って生かされている細かなフレーズ…。オリジナルのJ.B.シュトライヒャー(1845年、ウィーン)を弾く小倉貴久子のベートーヴェン後期三大ソナタの録音は、時代ごとのフォルテピアノの特性を知り尽くしている彼女ならでは。楽器をいたわり、愛でつつも、最適な打鍵とテンポ、フレージングで、その能力と魅力を最大限に引き出す。モダン・ピアノでは表現できぬ、奥深い響きの世界。知らなかった楽聖像が、ここにある。 (寺西 肇)尾高忠明のエルガーは定評があり、名盤も多いが、前回の交響曲第1番は、大阪フィルの特性を生かした新境地をひらくような出来栄えであった。本盤はそれに勝るとも劣らない。第2番は第1番ほど親しみやすくなく、対位法の線が複雑に絡み合っているが、尾高はそれを精緻に処理し、なおかつたっぷりと歌うところが巧い。スケルツォでも錯綜したテクスチュアを見事に整理しながら、所々にデリケートなニュアンスが付けられて、とてもきれい。中間の激越な頂点も凄まじい。終曲のゆったりとした歌も美しい。尾高=大阪フィルの実力が存分に発揮された、上品で魅力的なアルバムである。(横原千史)人気の葵トリオのライブ録音。彼ららしい豊麗でアグレッシブな音楽に加えて、ピアノがどれだけ弾いても常にチェロが聴こえるなど、響かせ方の精緻なコントロールも完璧。シューマンが厚めなハーモニーに込めた憂愁と憧憬を、スケール大きく、かつ繊細に、共感豊かに表現し尽くす。シューベルトの名曲は万全そのもの。緩急は自在、古典的な素朴さから急に現れる深淵も明らかにして、緩徐楽章の悠久の美には嘆息するばかり。ライブで燃え上がる彼らの本領は、拍手の熱気でもよく確認できる。瞬く間に“期待の”を超えて“世界的団体”の域に入ってしまった葵トリオの面目躍如。(林 昌英)ピアニストの矢島愛子は桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースおよびハノーファー音楽演劇大学大学院を修了。ドイツで研鑽を積み、国際コンクールで着実な成果を上げている彼女の音色は豊かな響きに包まれており、それを見事に操ることでピアノから美しい歌を奏でている。本盤はそんな矢島の魅力が詰まったディスクであり、中心となるシューベルトのピアノ・ソナタ「幻想」は柔らかな音色が様々な色調を帯びて聞こえてくる。フランクとバッハ=ブゾーニでは、音の美しさはもちろん、幅広い強弱のコントロールでスケールの大きな音楽を堪能したい。 (長井進之介)ベートーヴェン:クラヴィーア・ソナタ ホ長調 op.109、同変イ長調 op.110、同ハ短調 op.111小倉貴久子(フォルテピアノ)エルガー:交響曲第2番尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番/フランク:前奏曲 コラールとフーガ/J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 第5曲)矢島愛子(ピアノ)コジマ録音ALCD-1216 ¥3300(税込)収録:2022年4月、フェスティバルホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00801 ¥3520(税込)収録:2022年3月、紀尾井ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7978 ¥2750(税込)妙音舎MYCL-00032 ¥3300(税込)エルガー:交響曲第2番/尾高忠明&大阪フィル葵トリオ 《ライヴ at 紀尾井ホール 2022》シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調/シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調葵トリオ【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番 他/矢島愛子nuovo vivente ベートーヴェン:クラヴィーア・ソナタ 作品109・110・111/小倉貴久子
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