eぶらあぼ 2023.2月号
61/153

58〈エスポワール スペシャル 18〉アンナ・ルチア・リヒター(メゾソプラノ) & ティル・フェルナー(ピアノ)〈エスポワール シリーズ 12〉嘉目真木子(ソプラノ) Vol.3 ―ドイツ・リート澄み渡る声と最高の表現力、ドイツ・リートが輝く二夜 トッパンホールのクリアな音響で、この2人のドイツ・リートを聴けるのはうれしい。アンナ・ルチア・リヒター、中二日をおいて嘉目真木子。 まず、海外の卓越した若手や中堅をいち早く紹介する〈エスポワール スペシャル〉のVol.18は、リヒターの日本初リサイタルだが、透明で清らかな声を自在に操る彼女の歌は比類ない。磨き抜かれた純粋さと表現すると、矛盾を感じるかもしれないが、彼女のピュアな声には達人だけに備わる光沢がある。 そして、作為が感じられない自然な歌い口でありながら、音の端々までこまやかに、曲を完璧に造形する。技巧的な歌唱もお手のものなので、リートを歌っても、どんな音符の動きも美しく追う。だから歌に気品がある。 しかし、リヒターの真骨頂はさらに先にある。計算が速く正確な子どもこそ、数学の難問に思考をめぐらせるように、基礎が堅固な彼女は、歌に言葉の美しさと一体になった魂をひときわ深くこめる。 ブラームスの「49のドイツ民謡集」のほか、シューベルトとシューマンの著名な曲が歌われるが、ティル・フェルナーの精緻でピュアなピアノにも支えられ、忘我の境地に誘われる人が続出することだろう。 続いて嘉目真木子は、すぐれた才家ポーリーヌ・ヴィアルドの「ショパンのマズルカを基にした歌曲集」で、歌心あふれる香り豊かなピアニズムを披露する。 フリスはベートーヴェンを得意とした巨匠ピアニスト、パウル・バドゥラ゠スコダに「フリスのベートーヴェンは本物だ」と絶賛された。その彼がショパンを軸に据えた選曲で聴き手を作品の内奥へといざなう。3/18(土)11:00 14:00 広島/三次市民ホールきりり3/19(日)14:00 京都/福知山サンホテル3/23(木)19:00 北海道/函館聖マリア教会 他問 MCSヤング・アーティスツ mticket@mcsya.org https://mcsya.org能と実力を兼ね備えた若手を紹介する〈エスポワール〉シリーズ12の、今回が全3回の最終章である。 潤いのある艶やかな声が魅力の嘉目は、時に情熱的に歌っても、たしかなフォームは崩れない。それは彼女の知性の賜物である。端正な歌は神経が行き届いた言葉と理想的にからみあい、感情が色濃くにじむ。こういう歌い方ができる歌手は日本には少ない。嘉目にそれが可能なのは、いつも表現について考え抜いているからだろう。 この〈エスポワール〉でも、第1回はオール日本歌曲で、自分の心に響く作品だけを丹念に選んだ。第2回は8ヵアンナ・ルチア・リヒター&ティル・フェルナー 2/15(水)19:00嘉目真木子 2/18(土)17:00トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.comアンナ・ルチア・リヒター ©Ammiel Bushakevitzティル・フェルナー ©Gabriela Brandenstein嘉目真木子 ©T.Tairadate文:伊熊よし子文:香原斗志北村朋幹 ©TAKA MAYUMI国8人の作曲家の歌曲を並べ、歌の魅力を異なる言語と見事に結びつけた。それらは最終章のドイツ・リートが輝くために、考え抜かれた道筋だった。 マーラー、シェーンベルク、ヒンデミット、ツェムリンスキー、ベルク、R.シュトラウスと、リヒターが選んだ19世紀の作品に続く、20世紀のリートの選曲。そこにも知性が垣間見える。今回も北村朋幹のピアノが鮮やかに支えるはずだ。 どちらか一つだけでも聴きたいが、2つを続けて聴けば、深い味わいとともにドイツ・リートの歩みも聴き手に刻まれる。それを実現させたトッパンホールの手腕にも脱帽である。ベンジャミン・フリス(ピアノ) 平和を求めて自国を去った作曲家たち英国出身の名匠が奏でる燻し銀の音色 シリーズ「祈りが音楽になったのではない、音楽こそが祈りだったのだ」第3弾 ~平和を求めて自国を去った作曲家たち~ にイギリスのピアニスト、ベンジャミン・フリスが登場する。フリスは1989年アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクールに優勝した実力派。ジョン・フィールドの全協奏曲の録音をしたことでも知られる。また、ソロのみならずグールド・ピアノ三重奏団、フリス・ピアノ四重奏団などで室内楽奏者としても活躍している。今回はノクターンの創始者ジョン・フィールドの作品、ショパンの「ノクターン」、19世紀フランスの声楽家・作曲

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る