eぶらあぼ 2023.2月号
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2/21(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp第51回サントリー音楽賞 受賞記念コンサート 河村尚子(ピアノ)時代を超えた作品を様々な編成で味わう二夜 綺羅星のごとく、数多くの優れたピアニストが活躍するなか、いつも期待を超えてくるのが河村尚子だ。3月に開かれるサントリー音楽賞の受賞記念コンサートは室内楽(共演:ドーリック弦楽四重奏団)と協奏曲(共演:山田和樹指揮、読響)の二夜にわたる贅沢なプログラムで、選曲もこれまでとは一味ちがうラインナップである。 河村が受賞した3年前には、「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト」が完結した。2004年の日本デビュー以来、ショパン、シューベルト、シューマンといったロマン派の作曲家で聴衆を魅了してきた彼女が、ベートーヴェンのソナタに真正面から取り組んだのはこの時が初めて。インタビューでは子どもが生まれてたくましくなり、遠い存在に感じていたベートーヴェンのエッジの効いた音楽に共感できるようになったと語っている。ちょうどベートーヴェン生誕250年に向けて、気運が盛り上がっていた時期で、明るく楽しげで生命力がみなぎる第32番、真摯でしなやかな第29番「ハンマークラヴィーア」など、作曲家の心情に分け入る河村の解釈はとても新鮮だった。 13年前、評論家の吉田秀和は河村のピアノを「感情の表現の密度が濃いという点がいちばんの特徴」と述べ49高音の豊潤さ、陶酔的な節回しなど、終始感嘆させられる。 今回は、バッハの無伴奏チェロ組曲をはじめ、マウスピースを使わない作品や超特殊奏法を用いる作品、マリンバやコントラバス・フルートとの共演、ノイズやエレクトロニクスとともに創造する作品、そしてCDでも評判を呼んだドビュッシーなど、興味津々の演目がズラリ。楽器の可能性をとことん追求する気鋭のステージをぜひ体感したい。た。音楽に託された情感に共鳴する繊細さと濃やかさこそ、ずっと変わらない彼女の真骨頂である。逆にいうと、作品に込められた作曲家の気持ちに共感できなければ、演奏会で取り上げることはない。人生を積み重ねながら、河村は等身大で解釈できる作品を一つひとつ、着実に増やしてきた。 今回の曲目で個性的なのがレベッカ・クラークとエイミー・ビーチという女性作曲家の作品だ。ドイツ・エッセンのフォルクヴァング芸術大学の教授を務める河村は、コロナ禍の3年間、ピアノを学ぶ学生に週1度のオンライン・スピーチを課した。そこで、女性作曲家について紹介し合う機会をもって、あらためて彼女らの音楽のすばらしさに目覚めたという。イギリスに生まれ育ち、後年は合衆国で過ごしたクラークの骨太でモダンな味わいをもつピアノ三重奏曲、後期ロマン派の作風をもつアメリカのビーチの華やかな協奏曲は、いずれも彼女たちへの想いを反映した演奏となるはずだ。 矢代秋雄の代表作であるピアノ・ソナタも必聴である。受賞理由ともなっ[室内楽]3/9(木)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)[協奏曲]3/13(月)19:00 サントリーホール問 サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 suntoryhall.pia.jpた矢代のピアノ協奏曲での鮮烈な演奏を思い出す。河村のレパートリーとして熟しているシューマンのピアノ五重奏曲とブラームスのピアノ協奏曲第2番では、どんな進境がうかがえるのか。今から胸が高鳴る。文:柴田克彦文:白石美雪©Ayane Shindo©Marco Borggreve東京オペラシティ B■■■■■■■→C 本堂 誠(バリトン・サクソフォン)気鋭の奏者が拓く低音楽器の新たな音世界 バリトン・サクソフォンのイメージを一変させる奏者、それが2月の東京オペラシティ「B→C」で主役を務める本堂誠だ。1989年生まれの彼は、東京藝術大学やパリ国立高等音楽院等で学び、3つの国際コンクールや日本管打楽器コンクールで優勝後、ソロを中心に活躍している。サクソフォンの中でも低音・伴奏楽器と思われがちなバリトンだが、彼は「他の低音楽器よりも高い機動力を備え、温かく広がる響きと人の声に近い音域が耳に馴染みやすく、心地良く聴けるのが魅力的」と語る。実際その演奏は、極めて表現力が豊かで、この楽器ならではの低音の妙味とアルト顔負けの

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