eぶらあぼ 2023.2月号
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 1987年以降、何組かによってステージ化されてきたが、その解釈には疑問の残るものも少なくなかった。そんな中でタンゴとしての本質を正面から捉えたのが、東日本大震災直後の公演46Interview小松亮太(バンドネオン)ピアソラの最重要作をタンゴのスペシャリストたちが1日限りの上演!取材・文:斎藤充正 2021~22年に生誕100年と没後30年が続いたアストル・ピアソラ。目白押しだった記念企画の真打となりそうなのが、2023年3月5日に川口リリアで行われる小松亮太の「ピアソラ《ブエノスアイレスのマリア》」公演。タンゴによる壮大な“オペラ” 作曲とバンドネオンのピアソラ、作詞と朗読のオラシオ・フェレール、フォルクローレ出身の女性歌手アメリータ・バルタール、男性タンゴ歌手のエクトル・デ・ローサスが中心となり、1968年5月から8月までブエノスアイレスの劇場で上演された《ブエノスアイレスのマリア》は、全2部計16曲からなる大作。スタジオ録音された2枚組LPのライナーで作者たちは「どこかカンタータのようであり、オラトリオと似た構成をもち、一部にはオペラの展開に独特の要素もあった」ので「私たちは便宜的に『オペリータ』と命名した。すなわち『小オペラ』、オペラとは『作品』のことである」(高場将美訳)と解説しているが、いずれにしても額面通りのクラシックのオペラ形式などとは異なっている。 端的に言えば、それまで前例のなかった壮大なタンゴ組曲ということになろうか。実際、ピアソラがこの作品用に組んだ11人編成のアンサンブルは、自身の五重奏団のメンバーを中心に、タンゴを熟知した顔ぶれで固められていた。公演は商業的には成功せず、ピアソラ自身は二度と再演しなかったが、レコードが残されたことで歴史に名が刻まれ、ピアソラの代表作のひとつとなった。ベストメンバーによる10年ぶりの再演中止を経て、2013年6月に真正マリアたるアメリータを迎えて東京オペラシティでの初演に漕ぎ着けた、バンドネオンの小松亮太だった。 今回はそれ以来、実に10年ぶりの再演となる。 「世界中でピアソラは時としてクラシックの作曲家であるかのような扱いをされていますが、こういう作品を聴くと、やっぱりそれはちょっと違うなと感じます。楽譜より先走っているのにすごく歌っているように聴こえる、タンゴ特有のフレーズ感によって音楽が生きてくるわけです。タンゴを一生懸命やっている人間、ピアソラだけではなくてアルゼンチン・タンゴ全体を俯瞰した人間でなければ、この作品はできないと、あえて言っていいでしょう」 難解な歌と朗読を前回は海外勢で固めたが、今回はアメリータの愛弟子でもあるSayaca、古典からピアソラ小松亮太 ピアソラ《ブエノスアイレスのマリア》(コンサート形式)3/5(日)15:00 川口リリア 音楽ホール問 リリア・チケットセンター048-254-9900 https://www.lilia.or.jp新型コロナウイルスの影響で、公演やイベントが延期・中止になる場合があります。掲載している公演の最新情報は、それぞれの主催者のホームページなどでご確認ください。まで知り尽くしたKaZZmaに、ナレーターとして2017年のアルゼンチン・タンゴ世界選手権チャンピオンのダンサー、アクセル・アラカキも加わる。 「タンゴ世界のスペイン語を理解していて、なおかつそれを日本人に聴かせるとなると、アルゼンチンにルーツを持つ彼が適役じゃないかと」 そのテキストは現地人でも理解が難しいと言われる。 「レコードを聴いているだけでは本当にわからない、僕も前回のオペラシティの本番中に内容を理解しましたからね。バンドネオンが休みの時に字幕を見ながら、語りやアメリータさんたちの歌を聴いて、あぁ、なるほどなと思った。移民国家の都会が持つ矛盾や自己アイデンティティの破綻に悩む人たちの叫びのようなものが映し出された、タンゴという音楽でしか表現し得ない作品だと思うのです」 ©Yusuke Takamura

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