eぶらあぼ 2023.2月号
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 さて舞踊評論家のなかでは珍しく、オレはけっこうこれまで様々な媒体で連載をしてきた。1冊にまとまって出版されてもいるので、もはやコラムニストと自称してもいいかもしれない。そして今回はせっかくの機会なので、すこし真面目に評論家が連載をする意義について書かせてもらおう。 オレが連載を続ける目的のひとつは、日本にプロの舞踊評論家を根付かせることだ。40年前にオレが書き出した頃の舞踊評論は、実質大学の先生の余技という感じだった。素晴らしい人はいるが、オレはダンスについて書くことだけで成り立つロールモデルを創り出そうとしてきた。そうでなければ後進が続かないだろう。アーティストと評論は両輪である以上、評論家も進化していかなければならない。アーティストにはある助成金なども評論家に対してはほぼないので、こういう場で継続的に書かせてもらえるのは貴重なのである。 もうひとつは、評論家という生き物が物事をどう見てどう受け止めているのかを記しておくことだ。普段からどんな取材をして、評論以外に何を考えているのか。完成形の評論ではなく、思考の軌跡を記すことも重要なのである。 そして最終的な目的は、大きいことを言うようだが100年後の人々に生きたダンスの情報を伝えるためだ。オレはコンテンポラリー・ダンス関連の単行本を出版している数では日本一だと思うが、それらもすべて同様の思いで書いている。アーカイブ的なデータだけでは、その時の社会情勢や文化の流れの中で人々がどんな風にダンスを愛し楽しんだかは伝えきれない。特にコンテンポラリー・ダンスは、同時代のあらゆる文化のリアリティを抉り出すものなので、そうした視点が不可欠なのである。 だからオレはこれからも、その時々のダンスを取り囲む様々なことを、オレだけの切り口で書きまくっていくぜ! ……とカッコつけた後でなんだが、いちおう年末にあったことを記しておこう。 12月はオレが公式アドバイザーを務めるダンスフェス『踊る。秋田』が開催された。コロナ禍を越えてのリアル開催でコンペティションは国内出演者のみだったが、香港やシンガポールからのゲストダンサーの公演もあった。また今回は『不思議の国の秋田』という特別企画公演で、松本修が演出したカフカの『城』をモチーフに秋田の様々な伝統や文化が登場し大いに盛り上がった。実は演出を手がけたのは同フェスの山川三太ディレクターで、彼はかつてアングラ劇団の主宰者だったのである。 2022年全体を振り返ると、オレはイタリアとリトアニアに招聘されて日本のダンスのレクチャーを、韓国・台湾・シンガポールでは取材や審査をしてきた。今号が出る頃にはインドに行っているはずだ。 読者とともに、ダンスのために、オレの旅はまだまだ続く。 今年も、これからも、よろしくお願いします。1月5日に編集部の皆さんを表敬訪問。と、オレの趣味「ブレた自撮り写真」135Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com

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