eぶらあぼ 2023.2月号
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祝第100回 「振り返ると、そこには愛しか」 祝・連載100回記念! 見開き増ページとは編集部も太っ腹である。この連載が100回も続くなど誰が想像しただろう。まわりを見てご覧なさいよ。クラシック音楽やオペラの情報満載の格調高い雑誌ですよ。そんな中でコンテンポラリー・ダンスという、ときに全裸になったり公序良俗を逆なでするような表現もいとわぬダンスの魅力を語り続けてきたこの連載がこんなに続けさせていただけるとは。これもひとえにオレがすご……いや編集部と読者の皆様のおかげである。 この連載が始まったのは2014年9月号で、本誌が創刊20周年を迎えた年である。じつは連載が始まる前、「ぶらあぼ」の姉妹誌に「Danza」というダンス専門誌があり、オレはそこで記事を書いていた。しかし両誌は合体し「ぶらあぼ+Danza inside」となったのである。雑誌の中にもう一枚表紙があって、ちょっと面白い形態だった。この雑誌内雑誌である「Danza inside」で本連載は始まったのだ。 オレは本体である上品なぶらあぼ読者にもひとつカマしておかねばと思い、タイトルはオペラ《トゥーランドット》の有名な歌〈誰も寝てはならぬ〉をもじって「誰も踊ってはならぬ」とした。そして第1回のタイトルは「コンテンポラリー・ダンスなど、すたれてもよいのだ」というね、もはや全方向に噛みついてまわる狂犬のようなスタートではあった。 そして連載22回目になると両誌は「ぶらあぼ」に統一された。消滅する「+Danza inside」の中にあったオレの連載は自動的になくなるものと思っていたが、編集部は続行を決定してくれたのである。 そこでけじめとしてサブタイトルをつけた。「……誰もオレを知らぬ」。オペラ好きの方はお気づきの通りこれも《誰も寝てはならぬ》の歌詞〈誰も彼の名をそれでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために知らぬ〉に引っかけている。ちなみに第26回からはタイトルの背景にガッと筆で書いたようなデザインを入れてもらった。小口(本の裁断された長辺)をムニッと曲げるとオレのページをすぐに発見できるので、新年早々の豆知識として覚えておいていただきたい。 そして今回。編集部からタイトルまわりの相談があった。これはおそらく「100回も連載しといて『誰もオレを知らぬ』とか、なにいってんの?」ということだろうから、オレも色々考えた。 で、もはや歌詞とは関係なく、ストレートに自分の思いを込めたものにしたよ。 100回も続くうちには色々なことがあった。 本誌は日本全国津々浦々の劇場等で手に取れるので、思いのほかオレの連載もクラシック界の皆さんに読んでいただけていたようだ。取材で地方に行った際にピアニストの方から「読んでます!」と声をかけていただいたりと、本誌でなければ出会わなかったであろう人々にも届けられたのは幸甚である。 またあるときオレは「三カ国ダンス取材ツアー支援プロジェクト」と題し、取材費用をクラウドファンディングで集めたことがある。内心(舞踊評論の取材なんぞを支援してくれる人などいるのか)とダメ元での挑戦だったが、真っ先に「ぶらあぼ編集部」名義で最高額の5万円を助成してくれたのには胸が熱くなったね。たんなる仕事の発注の枠を超えて、オレの舞踊評論家としての活動に賛同して支援してくれるたぁ、心意気がうれしい。はじめはオレもオシャレな雑誌に殴り込むぐらいの気合いで書いていたのだが、これ以降はちょっと心を入れ替えた。ちなみにクラファンは359%という予想を大きく超える達成率を果たし、無事取材ができた。134乗越たかお

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