eぶらあぼ 2023.2月号
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ことばとこんとらばす 歌と語りとコントラバスと/近藤聖也 他シューマン:交響曲第2番、ブラームス:大学祝典序曲/山下一史&愛知室内オーケストラリムスキー=コルサコフ:ピアノ作品集 Vol.1/広瀬美紀子ヤナーチェク、ブラームス、バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ集/パトリツィア・コパチンスカヤ、ファジル・サイ「コントラバス」には「ことば」が含まれている。このアルバムはそんな冗談みたいなお題をテーマに全力で遊んでみた野村誠「コントラバスのことば」をはじめ、普段は陽の当たりにくいこの楽器を、テクストに直接ぶつけて何が出るかを試した一大実験集である。大正期の青春文学の煌めくロマン(中村匡寿)から現代詩のイメージのジャンプ(波立裕矢)まで、ノアの方舟伝説(佐原詩音)や禅の連作絵画のインスピレーション(溝入敬三)から多重人格的パフォーマンス(川島素晴)まで、その実験はまことに楽しい遊戯の連続だ。ことばに触発されたコントラバスのアクロバットをとくとご覧あれ。(江藤光紀)山下一史が愛知室内オーケストラ(ACO)の初代音楽監督に就任したのを受けて、2022年4月16日に行われた披露のステージ、第31回定期演奏会のライブ録音。“老練”なオケには出せぬ、“若い”楽団であるACOならではの瑞々しい響きが、第1音から耳を捉える。シューマンの音楽に頻繁に現れる、舞曲を思わせる弾むフレーズも、本当に踊り出すかのよう。かたや、その緩徐楽章が湛える深い精神性。山下と楽員全員が、陽光と陰影が交錯する楽想へ軌を一にしていることが伝わってくる。そして、ACOの覇気が前面に出たブラームスの「大学祝典序曲」。青春に特有の情感がほとばしる。(笹田和人)広瀬美紀子は東京藝術大学大学院を修了後、ソロおよびアンサンブルで幅広く活動を展開するピアニストである。これまでヴィラ=ロボスやグノーなど特定の作曲家に焦点を当てたディスクを多数リリース。今回取り組んだリムスキー=コルサコフでは、「シェヘラザード」や「スペイン奇想曲」、「熊蜂の飛行」の編曲を自ら手掛けるというこだわりぶり。タッチの明瞭さや音色の多彩さといった演奏面はもちろんだが、濃密なオーケストレーションが特徴である同作曲家の作品を、ピアノならではの魅力を引き出す作品に生まれ変わらせた手腕にも驚かされる。   (長井進之介)開始5秒で慄然とさせられ、独特な表現と美に圧倒され続けるヤナーチェク。唯一無二の尋常ならざる世界が確立するバルトーク。東欧の2曲におけるユニークさと説得力の両立は他の追随を許さない。ブラームスもすべての音が生き物のようであり、美しいピアノと熱いヴァイオリンの絡みはやはり圧巻。全曲が未体験の表現で、特にサイのピアノの響きには何度も陶然とさせられた。なにより価値観を共有した奏者同士の喜びに、聴き手も巻き込まれる。「鬼才」と呼ばれるコパチンスカヤとサイだが、楽曲と演奏の核心を鷲掴みにしてしまう彼らこそ「王道の芸術家」なのかもしれない。(林 昌英)128収録:2022年4月、三井住友海上しらかわホール(ライブ)妙音舎MYCL-00040 ¥3520(税込)クァッドリーガQR-09005 ¥2500(税込)波立裕矢:「シュタイネ」より〈11.ヘルツシュラーク(鼓動か)〉/佐原詩音:Noah’s Ark/川島素晴:12人のイカれたベーシスト/中村匡寿:The Ascension of “K”/溝入敬三:十枚の絵/野村誠:コントラバスのことば近藤聖也(コントラバス) 薬師寺典子(ソプラノ) 松平敬(バリトン) 吉田瑳矩果(ハープ) 水野翔子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)コジマ録音ALCD-134 ¥3080(税込)シューマン:交響曲第2番 ハ長調ブラームス:大学祝典序曲山下一史(指揮)愛知室内オーケストラリムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行(歌劇《サルタン皇帝》第3幕 間奏曲)、交響組曲「シェヘラザード」第1楽章 海とシンドバッドの船、スペイン奇想曲(以上広瀬美紀子編)、バッハの主題による6つの変奏曲、3つの小品、マズルカ op.38-2、歌劇《プスコフの娘》第2幕 間奏曲 他広瀬美紀子(ピアノ)ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番/バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)ファジル・サイ(ピアノ)ALPHA/ナクソス・ジャパンNYCX-10366 ¥3300(税込)CDSACDCDCD

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