eぶらあぼ 2023.2月号
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ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」/ジョナサン・ノット&東響均衡と貴方と重力の値/ザ・ナルマン・クラリネット・アンサンブルドメニコ・スカルラッティ:チェンバロのためのソナタ集 Vol.1/辰巳美納子音楽監督就任当初から評価の高かったノットと東響だが、コロナ禍も越え、最近の演奏には本当に良い信頼関係が育ってきたと感じる。マエストロの動きをオケが寸分漏らさず音にする以心伝心ぶりは、どこでも見られるというものではない。このブルックナーにもそれはよく表れており、緻密な解釈と精度の高いアンサンブルが、豊かな歌と溶けあい自然な流れを生んでいる。伸びやかに始まり心地よく推進する冒頭楽章、艶やかな歌がまぶしいアンダンテ、キレのよいスケルツォとのどかなトリオ、原始雲の中からいかずちのように打ち鳴らされるフィナーレのフォルティッシモ、すべてがクリアで鮮やかだ。(江藤光紀)20代の気鋭奏者4名によって2018年に結成されたアンサンブルのデビュー・アルバム。1994~2020年に書かれた作品を5曲収録した意欲的な内容だ。こうした現代曲は技巧的難度も高いが、同分野に積極的な取り組みを続けるグループだけあって、演奏はさながら“高度な技術の集合体”の趣。バス・クラリネットを2本用いたフィトキン作品やE♭管を加えたベッファ作品をはじめとする多彩で変化に富んだサウンドが耳を惹き付け、coba作のCDタイトル曲が聴く者に愉しさをもたらす。クラリネットの新たな可能性を示した興味深い一枚。  (柴田克彦)大バッハやヘンデルと同じ1685年生まれ、スペインのマドリードなどで活躍したドメニコ・スカルラッティ。独自の作曲技法を操る鬼才による、鍵盤楽器のためのソナタは約560曲におよぶとも。主に単一楽章で書かれたこれらの中から、チェンバロの名手・辰巳美納子は今回、“対”を成すと考えられる3組を含めた12曲を厳選して収録した。バッハの録音では、知性と愉悦を巧みに出し入れする秀演を聴かせた彼女だが、今回はあえて前者を優先。全体的に端正な演奏だからこそ、不協和音の使用や同一音型の執拗な反復、意表を突く転調など、スカルラッティの作曲技法の先鋭さがいっそう際立つ。(寺西 肇)ポルトガル語で「街角」を意味するカントジフア。スティールパン(伊澤陽一)、チェロ(薄井信介)、ギター(菅又-Gonzo-健)による3人組の2ndアルバム。中南米の香りただようオリジナル曲で溢れた前作とは打って変わり、今回は名曲「ゴルトベルク変奏曲」の全曲録音に1年かけて挑戦。全国ツアーの中で制作プロセスをファンと共有させて完成させた。ヴァイオリン/チェロ/ヴィオラ版を元にした世界初のアプローチだがクラシカルで荘厳な響きの中から素朴な笑顔がこぼれる。第30変奏で元ネタのひとつ「キャベツとかぶ」(当時の流行歌)をゲスト・コーラスで再現したのも素晴らしい。(東端哲也)J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲カントジフア【伊澤陽一(スティールパン) 薄井信介(チェロ) 菅又-Gonzo-健(ギター)】ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1878/80年稿 ノーヴァク版)ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団グレアム・フィトキン:ヴェント/磯部周平:メタモルフォーゼンⅡ/ギョーム・コネソン:前奏曲とファンク/coba:均衡と貴方と重力の値/カロル・ベッファ:花火ザ・ナルマン・クラリネット・アンサンブル【亀居優斗 三界達義 吉本拓 和川聖也(以上クラリネット)】スカルラッティ:ソナタ ト長調 K.201、同変ロ長調 K.202、同ホ短調 K.203、同ニ長調 K.118、同ニ長調 K.119、同ロ短調 K.197、同ハ長調 K.143、同ト短調 K.546、同ト長調 K.547、同ロ短調 K.87、同ハ長調 K.460、同ハ長調 K.461、フーガ ニ短調 K.41辰巳美納子(チェンバロ)Canto de rua RecordsCDRR-0002 ¥3000(税込)124収録:2021年10月、サントリーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00796 ¥3520(税込)マイスター・ミュージックMM-4513 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-1212 ¥3080(税込)SACDCDCDCDJ.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲/カントジフア

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