eぶらあぼ 2023.1月号
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第99回 「台湾のダンスフェスで日本の歴史と向き合う」 ついにゾロ目の99回! 感無量である。 11月は今年5ヵ国目「台湾ダンスプラットフォーム(TDP)」に招かれた。2018年に南台湾の芸術の拠点として造られた巨大複合施設・衛武營國家藝術文化センターが主催し、同年から隔年開催されている。世界的に存在感を増す台湾のダンスが一堂に揃う重要なフェスだ。 今回のテーマは『島嶼連結:身体上線(アイランド・コネクション ボディ・オンライン)』である。島国の台湾はオランダ、日本、中国など様々な国に侵略されてきた歴史がある。原住民族(台湾では「先住民族」ではなくこちらを使う)は住んでいた土地を奪われ、追いやられ、抵抗した多くの人々が殺された。さらに同化政策で言葉やダンスなど伝統文化は禁じられ、失われてきたが、1996年に台湾原住民族委員会(CIP)が設立され改善の動きは高まっている。 本フェスでも最先端のダンスとともに、原住民族の存在が大きくクローズアップされていた。公式に認定されている16の原住民族の中で、約10万人(CIP/2020年1月現在)を擁するパイワン族の村の事前視察も行われた。 山間部にある村は近代的な住居で普通にコンビニもある。なかでもティムール(Tjimur)ダンスシアターのスタジオは1階が民族衣装など伝統美術のショップになっており、じつにオシャレだ。我々は奥のスタジオでバルー・マディルジン Baru Madiljin振付の『bulabulay mun?』を見た。波の音の中150cmほどの流木を持ち、赤と黄色の現代的な衣裳で5人の男女が踊る。波の波動が身体に移り大きく展開していく動きはコンテンポラリーダンスである。 タイトルはパイワン族の言葉で「お元気ですか?」という日常の挨拶の意。しかしこれは1874年、日本が台湾植民地化の足がかりに軍を派遣して台湾南部を攻撃した事件のリサーチを元に作られた。バルーは「これは日本を責めるのではなく、家族を守るProfileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com134ための団結が描かれている」というが、複雑な気持ちになった。 彼らのTDPへの正式上演作品は衛武營の巨大な庇の下に作られた特設舞台で行われる『GO PAIWAN』(パイワン(族の元)へ行こう)。開演前に民族衣装を着た芸術監督のリュゼム・マディルジン Ljuzem Madiljinが、床に座っている観客の間を静々と歩く。やがて客席のあちこちに紛れていた現代的な服装のダンサー達が声を上げながら舞台に上がり、軽快だが強靱でしなやかな動きを見せた。そして複雑な和音の伝統歌が響く。 オレが気になったのはタイトルの漢字表記『去排灣』である。日本式だと「パイワンは去れ」とも読めてしまう。過去に旧日本軍がパイワン族を強制移住させた歴史が頭をよぎる。 振付のリン・ウェン・チュン LIN Wen-Chungに質問すると「去」には「refuse(拒む)」という意味があり二重にかけているという。きらびやかな民族衣装ではなく、普通の服を着ているのも「原住民族のステレオタイプ」を拒否しているからだ。自らのアイデンティティの上に立ちつつ、伝統に押し込められることなく、今を生きるリアルを見つめて、未来に向かって作品を作っているのだ。歴史を忘れてはならないが、彼らはその先に広く自由な伝統のありかたを見ているのである。オレは漢字を共有する文化のおかげで気づくことができた。そしてやっと前述のバルーの言葉を素直に受け入れられたのである。乗越たかお

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