eぶらあぼ 2023.1月号
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CDCDCDCD1266人の奏者を要し、打楽器創作史に燦然とそびえる高峰が、クセナキス生誕100年を記念してリリースされた。この作曲家をライフワークとする主宰者の上野信一の、いわば決定版とも言うべき録音だ。「ペルセファッサ」では、打撃音の奔流が渦を巻きながら聴き手を包み、らせん状に高揚する。4楽章からなる大作「プレイアデス」はクセナキスが考案した打楽器SIXXEN(シクセン)によるガムラン音楽のようにキラキラとした音響空間が、ヴィブラフォンやマリンバの不思議な韻律や、ボンゴ、コンガ、タムタム等の描く呪術的世界へと移り変わっていく。演奏はカオスをコントロールするという難題にも明快に応えている。(江藤光紀)日本でもおなじみ、ウィーン・フィル団員のヘーデンボルク兄弟の兄・和樹がベートーヴェンに挑んだ。余計な表現は排し、右手も左手も最小限のコントロール。「楽聖」の過剰な虚飾を取り除き、「ウィーン古典派の作曲家」の姿を取り戻そうとしているかのよう。イ短調ソナタ終盤の技巧的な見せ場でも激することはない。その姿勢は、彼の指名による森泰子のピアノの、素朴なまでに高い純度の音にも行き届いている。「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」が親密な空間で奏でられていた作曲当時の精神に、現代の楽器と奏法でも立ち戻れる、という静かな意欲が横溢する一枚。(林 昌英)クラシック・シーンでウクライナといえば作曲家スコリクの「メロディ」が今や愛奏曲だが、日本では北海道合唱団の故・木内宏治が手掛けた日本語詞による「キーウ(キエフ)の鳥の歌」も合唱の名曲として昭和の末から歌われている。越冬のため南へ渡るナイチンゲールに寄せて哀しみを綴った原曲は、2022年9月に発売されたウクライナのディーバ、オクサーナ・ステパニュックの2枚組アルバム『ウクライナの歌』にも収録されていたが、今回のシングル盤では木内の詩による日本語歌唱が聴きどころ。2003年以来、日本国内で多くのコンサートを行っているだけにその歌い回しも見事で胸を打たれる。(東端哲也)朝比奈隆以来久々の大阪フィル定期のブルックナー「第5番」。尾高忠明は基本的にインテンポだが、時にテンポ変化で大見得を切る。冒頭楽章の2つの主題は、大阪フィルの弦が美しい。特に第2主題では深い内省が祈りにまで高まる。再現部に向けた高揚も凄まじい。アダージョの第2主題も朝比奈を思い出させる豊かさ。スケルツォは尾高の緩急の設計が巧く、ワクワクするような楽しさだ。フィナーレでは展開部の二重フーガが精緻で聴き応えがある。そしてコーダの金管コラールの頂点は壮大で、体の奥底から沸き上がるような感動がある。これは尾高の最高のブルックナーだ。朝比奈の伝統の見事な継承。(横原千史)クセナキス:ペルセファッサ、プレイアデス上野信一&フォニックス・レフレクション【悪原至 上野信一 亀尾洸一 新野将之 曲淵俊介 峯崎圭輔(以上パーカッション)】ビラシィ(鈴木豊乃編):キーウの鳥の歌(日本語歌唱・ウクライナ語歌唱・カラピアノ)オクサーナ・ステパニュック(ソプラノ)比留間千里(ピアノ)BeltàレコードYZBL-5004 ¥1500(税込)ブルックナー:交響曲第5番(ノーヴァク版)尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団コジマ録音ALCD-7284 ¥3080(税込)カメラータ・トウキョウCMCD-28383 ¥3080(税込)収録:2022年2月、サントリーホール(ライブ)フォンテックFOCD9873 ¥3080(税込)クセナキス:ペルセファッサ、プレイアデス/上野信一&フォニックス・レフレクションベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番・第5番「春」・第10番/ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク&森泰子ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番、同第5番「春」、同第10番ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリン)森泰子(ピアノ)キーウの鳥の歌/オクサーナ・ステパニュックブルックナー:交響曲第5番(ノーヴァク版)/尾高忠明&大阪フィル

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