eぶらあぼ 2023.1月号
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SACDSACDCDCD124五嶋みどりがデビュー40周年を機にリリースした集大成的なベートーヴェン録音。芳醇でこまやかな彼女のヴァイオリンと、出過ぎずして雄弁なティボーデのピアノが、同一のベクトルで「ピアノとヴァイオリンのための」ソナタを共奏した、ナチュラルかつハイクオリティの全集だ。特筆されるのは、前半の楽曲でしなやかにピアノに寄り添っていたヴァイオリンが、徐々にピアノとの対等性を増していき、「クロイツェル」では丁々発止の迫真的な二重奏を展開するなど、楽聖が描いた同ジャンルの性格の移ろいが見事に示されている点。全体に緩徐楽章の豊かな味わいも印象的だ。 (柴田克彦)ミニマルミュージックをルーツとする久石譲が2014年から手掛ける、現代作品を紹介するコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」は22年も第9回が開催され、東京では追加公演でも好評を博したばかり。本盤は21年10月の第8回を収録したライブ盤でEXTONレーベルからの第6弾。この年は第1回目からの定番であるニコ・ミューリーや、兄弟で映画音楽の分野でも人気のブライス・デスナーといった米国勢に加えてエストニア出身2人の作品が必聴。レポ・スメラのさり気なく入り組んだリズムのピアノ曲、アルヴォ・ペルトの打楽器モティーフで区切られた変奏曲のどちらも難解そうでいて静謐かつ美しい。(東端哲也)8年以上にわたるパリ留学を通じ、務川慧悟が深く研究してきたラヴェルの、ピアノ作品全曲録音。冒頭の「古風なメヌエット」から、柔らかくしかし心地よい冷たさのある音が広がる。「鏡」では緻密に書かれた音楽の背後にうごめくラヴェルの多様な感情を見せてくれる。緊張感と解放のコントラストが鮮やかな「夜のガスパール」、1曲ごとに異なる像や景色を浮かび上がらせる「クープランの墓」など、アルバム全体が、ラヴェルの人間らしさや繊細さに寄り添う親密さを湛えている。ブックレットの務川による文章も読み応えがあり、音に込められたものの理解を助ける。 (高坂はる香)辻井伸行が幾度も共演を重ねてきたヴァシリー・ペトレンコと、得意のラフマニノフ協奏曲第2番のスタジオ録音に臨んだ。ここで辻井は、すべての音をクリアに際立たせることで、一歩引いて曲自体に語らせるような練達の演奏を展開。オーケストラ共々、あふれる熱気と冷静な意志が同居する懐深さをみせる。驚かされたのはカプースチンのエチュードの2018年ライブ録音。実演とは思えないほどの超絶テクニックで完璧に再現、熱いグルーヴ感を出しながらも安定した流れで軽やかに聴かせていて圧巻。拍手がカットされているのは残念だが、会場はさぞや歓声に包まれたことだろう。(林 昌英)ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番〜第10番五嶋みどり(ヴァイオリン)ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)ラヴェル:古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ、ソナチネ、鏡、夜のガスパール、ハイドンの名によるメヌエット、高雅で感傷的なワルツ、ボロディン風に、シャブリエ風に、前奏曲、クープランの墓務川慧悟(ピアノ)NOVA RecordNR-02203(2枚組) ¥4400(税込)ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番カプースチン:8つの演奏会用エチュード辻井伸行(ピアノ)ヴァシリー・ペトレンコ(指揮)ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団ワーナークラシックスWPCS-13839/41(3枚組) ¥7590(税込)収録:2018年2月、サントリーホール(ライブ) 他エイベックス クラシックスAVCL-84140 ¥3300(税込)ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全集/五嶋みどり&ジャン=イヴ・ティボーデ久石譲 presents MUSIC FUTURE Ⅵ/久石譲&ミュージック・フューチャー・バンド久石譲:2 Dances for Large Ensemble/スメラ:1981 from “Two pieces from the year 1981”/デスナー:Murder Ballades for Chamber Ensemble/ペルト:Fratres for Violin and Piano/ミューリー:Step Team久石譲(指揮) ミュージック・フューチャー・バンド 西江辰郎(バンドマスター/ヴァイオリン) 鈴木慎崇(ピアノ)収録:2021年10月、紀尾井ホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00795 ¥3520(税込)ラヴェル:ピアノ作品全集/務川慧悟ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、カプースチン:8つの演奏会用エチュード/辻井伸行&ペトレンコ&ロイヤル・リヴァプール・フィル

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